研究テーマ

私たちのグループでは、海洋における様々な時空間スケールの物理素過程を、地球流体力学的なアプローチによって解明することを目指しています。 特に、中規模渦に代表される地衡流乱流から内部重力波の砕波に伴う小規模な乱流まで様々なスケールの乱流拡散過程のグローバル分布や、大規模な大気海洋相互作用の場となる海洋表層混合層の時空間変動など、大循環モデルの高度化に必要な基礎的現象の解明とその適切なパラメータ化を、理論・観測・データ解析・数値実験などの手法を用いて研究しています。 具体的な研究テーマは以下の通りです。

深海乱流混合の強度分布と物理機構

海洋深層には、1000年以上の歳月をかけて全球の海を巡る、深層熱塩循環と呼ばれる大循環が存在しています。 この循環は、膨大な量の熱を輸送することで、私たちにとって住み良い気候を維持することに寄与しています。 そしてこの全球スケールの深層熱塩大循環の強さやパターンを強くコントロールしているのが、鉛直乱流混合と呼ばれるミクロなスケールの物理現象です。 なぜなら、鉛直乱流混合によって表層から深層へと熱が伝えられることで、深層水は表層へと湧昇できるからです。 私たちのグループでは、海洋深層における乱流混合の強さをグローバルにマッピングし、深層海洋大循環モデルの高精度化に寄与するため、以下のように、理論と観測の両面から研究を進めています。 研究内容の概略については、専攻ウェブマガジン専攻の紹介ビデオもご参照ください。

縁辺海における潮汐混合

オホーツク海やインドネシア多島海に代表される縁辺海の中には、複雑な海底地形と強い潮汐流との相互作用によって活発な乱流混合が発生している海域が多くあります。縁辺海の強い鉛直乱流混合は、水塊変質や縁辺海-大洋間の海水交換、表・中層の海洋循環、ひいては気候変動へも影響を及ぼす重要な物理過程です。私たちは数値モデリングや現場観測などの方法によって縁辺海における潮汐混合の定量化とメカニズムの解明、大規模場への影響の正確な評価を目指しています。

海洋表層混合層モデルの高精度化

大気と海洋との相互作用は海洋表層混合層を通じて行われています。 従って、海洋表層混合層モデルの高精度化は、気候変動の予測向上の鍵を握る重要な課題です。 私たちは、海洋表層混合層の形成や発達を直接的に再現できるLarge Eddy Simulation (LES)モデルを開発し、その計算結果をもとに、既存の海洋表層混合層モデル内の乱流スキームの検証とその改良を行っています。

黒潮の流路変動を支配する力学機構

日本南岸沖で黒潮大蛇行が形成されるまでの過渡的応答を高解像度の数値モデルを用いて再現し、その流路変動が、黒潮流量の大きさ、黒潮と中規模渦との相互作用、黒潮と局所的な陸岸・海底地形との相互作用などの諸要因とどのように絡んでいるのかを調べています。

沿岸域における特異現象の物理機構の解明と予報システムの構築

顕著な前兆もなく、突然、津波のような高波が湾内に押し寄せる九州西方沿岸域での「あびき現象」、大潮-小潮周期の潮汐混合と同期して沖合の黒潮系暖水の水塊が湾内に侵入してくる四国西方沿岸域での「急潮現象」など、沿岸域で発生する特異現象を対象に発生機構の解明と予報システムの構築を目指しています。