インドネシア多島海域における乱流ホットスポットの定量化

世界で最も海面水温が高い海域として知られているインドネシア多島海は、その真上に熱帯域の大気大循環の心臓部となる深い対流を発達させ、海盆スケールの大気海洋現象を強くコントロールしています。この海面水温を決定する物理過程の一つとして潮汐混合の重要性がかねてより指摘されていました。 しかしながら、これまでインドネシア多島海域における潮汐混合の強度分布を議論した研究は少なく、内部波伝播の効果を無視した簡易的なパラメタリゼーション(Koch-Larrouy et al. 2007, 以下 「KL07 パラメタリゼーション」)を用いた研究が行われているのみでありました。そこで私たちのグループでは、インドネシア多島海域内における潮汐混合の強度分布の推定を目的とし、高解像度(Δx, Δy 〜 1 km)数値モデルを用い、海域内において内部潮汐波を陽に再現した数値実験を行いました。

まず、インドネシア多島海域において潮汐混合を発生させる要因となる内部潮汐波の励起、伝播、散逸過程を明らかにするため、モデル結果に対してエネルギー収支解析を行いました。その結果、内部潮汐波の顕著な励起源がいくつかの狭い海峡内に集中していること、そして励起された内部潮汐波の一部は励起源直上で散逸し、残りは鉛直低次モードの波として遠距離伝播した後に多島海内の浅海域で散逸することが明らかとなりました。 この内部波伝播の効果により、最終的に見積もられた潮汐混合強度分布は KL07 パラメタリゼーションによる見積もりと大きく異なることが明らかとなりました(図1)。 この結果は、インドネシア多島海域のように複雑な海底地形を有する海域での潮汐混合強度分布の解明に内部潮汐波の励起、伝播、散逸過程の実態の正確な反映が必要不可欠であることを強く示しています。 今後、インドネシア多島海域内の乱流ホットスポットの実地観測を実施することで、多島海域における乱流強度のさらに正確な推定を行い、海面水温の正確な時空間分布の解明を通じてインドネシア多島海域がグローバルな気候形成に果たしている役割を議論していく予定です。

図1:数値モデル (a)、KL07 パラメタリゼーション (b) から見積もられたインドネシア多島海域における水深平均の鉛直拡散係数