気候変動に関連したインド洋・太平洋の熱帯域および亜熱帯域における表層海洋循環系の変動過程を主に研究しています。特に、地球の大気海洋の駆動源として重要な東部インド洋から西部太平洋にかけての暖水海域に注目し、そこで観測される循環系が何故そのようになっているのか、どのような変動があり何がその変動を決めているのか、どのように気候変動と絡んでいるのか、という疑問に答えることを目指しています。
この海域はアジアおよびオーストラリア・モンスーンの影響を強く受けて複雑に変動すると共に、その変動が大気循環へ与える影響も大きく、地球上の気候変動に対して重要な役割を果たしていると考えられています。特に、太平洋のエルニーニョ/南方振動現象、インド洋のダイポールモード現象などの数年規模の変動や、十年程度の時間規模をもつ気候変動のメカニズムや、それらに関わる海洋の諸過程を明らかにしたいと考えています。主に、海洋のトレーサー場および流速場の現実的な3次元構造を再現する事ができる高解像度の海洋大循環モデルを用いた数値計算を行っていますが、観測結果なども用いた総合的な解析をしています。
我々の研究成果は、この海域の変動に関して、従来の循環像を書き換えるような結果や、南部熱帯インド洋での強制ロスビー波、中部インド洋で励起される赤道ケルビン波、オーストラリア周りの沿岸補足波等の様々な変動を相互に結び付ける新たな知見を示してきました。
2018年にはインド洋東部での観測を行い、観測結果とモデル計算結果を合わせた総合的な解析を進めています。
日本周辺には黒潮や親潮などの亜熱帯循環の西岸境界流が流れるとともに、様々な原因により励起される波動や海流系が取り巻いています。沿岸域と外洋をつなぐ海域は、これらの現象が複雑に絡み合い、沿岸域と外洋との間のエネルギー輸送や物質輸送を担っています。
本州南岸の黒潮は、この沿岸域と外洋の境界に位置する北太平洋亜熱帯循環系の西岸境界流であり、その季節・経年変動機構に関する研究にも取り組んでいます。特に、四国沖の時計周りの再循環渦や黒潮流路の変動機構などについて数値計算の手法を用いてアプローチすることで、気候変動の素過程の理解を進めることを目指しています。
また、福島第一原子力発電所から放出された放射性物質やその他の陸域起源の物質などの海洋内での分散過程に対して、沿岸ー外洋接続域の海洋変動過程がどのような役割を果たしているのか、どの場所でどのような現象が重要なのかなどを明らかにするための数値シミュレーション研究にも取り組んでいます。
日本学術振興会(JSPS) 二国間交流事業 (課題番号: JPJSBP120198201) および科研費・基盤研究(A) (課題番号: 17H01663) の助成を受けた研究成果が、原著論文として出版されました。
Authors: Iskandar, I., W. Mardiansyah, D. O. Lestari, and Y. Masumoto
Title: What did determine the warming trend in the Indonesian sea?
Progress in Earth and Planetary Science, 7:20, doi: 10.1186/s40645-020-00334-2
人工衛星観測によるデータや海洋内部の水温、塩分データが蓄積してきた1982年から2014年までの観測データを用いてインドネシア多島海における海面水温の長期トレンドを見積もり、その発生要因を検討した論文です。
日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルにも和文要旨が掲載されてますので、あわせてご覧ください。
2018年12月6日-29日、東部インド洋における海洋物理・生物地球化学・生態学的特性を統合的に把握することを目的として、関連分野の研究者が協力して研究航海を行いました。
私たちの研究室では、Leg-3(ジャカルタ→フリーマントル間)に乗船し、研究内容「1. 東部インド洋における表層循環系に関する研究」を担当しています。
IIOE-2 は、インド洋全域を対象として、海洋の物理・化学・生物・地質、気象や気候、それらと人間活動との関わりを明らかにするための総合的な研究プロジェクトです。1960年代前半に行われた IIOE
から50年の節目を迎え、その間に飛躍的に発展した観測技術と数値計算技術を利用して、インド洋の新たな研究を推進することを目的としています。このプロジェクトは2015年12月から10年間の予定で実施されており、以下の6つの科学テーマのもとで様々な研究が進められています。
- Human impacts
- Boundary current dynamics, upwelling variability and ecosystem impacts
- Monsoon variability and ecosystem response
- Circulation, climate variability and change
- Extreme events and their impacts on ecosystems and human populations
- Unique geological, physical, biogeochemical, and ecological features of the Indian Ocean
この中の科学テーマ2の共同議長として、インド洋の境界流と湧昇過程の研究を国際的にリードしています。
EIOURI は、東部インド洋に見られる海洋湧昇域の物理的な特性と変動メカニズム、生物地球化学的諸量の分布や変動との関連を明らかにすることを目的として実施されている国際的な共同研究プロジェクトです。このプロジェクトはIIOE-2の主要研究プロジェクトの1つともなっています。
EIOURIとIIOE-2の研究推進のため、2018年11月には学術研究船「白鳳丸」を使って、ベンガル湾から赤道域、さらにスマトラ島・ジャワ島沖の湧昇域の観測を行いました。これらの観測データと、高解像度の数値モデルを用いて、湧昇域の総合的な研究を進めています。
太平洋熱帯域には、そこでの大気海洋変動、特にエルニーニョ現象などに関連する大気海洋の状況をモニターし、それらに関する研究に資するためのデータを提供するための観測網が構築されています。これは熱帯太平洋観測システム(TPOS)と呼ばれ、係留系アレイ(TAO/TRITON
array)やアルゴフロート、人工衛星からのリモートセンシングなど、多様な観測装置を用いた統合システムとなっています。
TPOS2020 は、このTPOS の 2020 年以降の展開を見据えて
- どのような観測網が求められるか
- 基盤となるTPOSに加えて、プロセス研究用の観測プロジェクトとしてどのようなものが考えられるか
- 観測データを数値モデルと統合させ、気候変動予測を行う場合に鍵となる観測やデータは何か
などを検討するための国際的な委員会です。
主に数値モデリングの視点から、またインド洋での活動とのリンクを考える視点から、 この委員会の運営委員に加わっています。