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2020年5月、インドネシア科学院(LIPI) Iskandar教授との共同研究の成果が出版 (doi: 10.1186/s40645-020-00334-2)されましたので、概要をご紹介します。本研究は日本学術振興会(JSPS) 二国間交流事業 (課題番号: JPJSBP120198201) および科研費・基盤研究(A)
(課題番号: 17H01663) の助成を受けたものです。
日本地球惑星科学連合(JpGU)が運営する英文電子ジャーナルに和文要旨が掲載されましたのでこちらもご覧ください。
インドネシア多島海の海面水温上昇トレンドの要因は何か?
Iskhaq Iskandar , Wijaya Mardiansyah, Deni Okta Lestari, 升本 順夫
熱帯太平洋とインド洋を結ぶインドネシア多島海は、大気海洋系気候変動や海洋物質循環などで重要な役割を担う海域として知られている。特に多海域は,平均海面水温が高いインド洋・西太平洋暖水プール内にあるため、そのわずかな海面水温変動が大気海洋間の熱や淡水フラックスの変動に大きな影響を及ぼしている。多島海の海面水温変動には様々な時間規模の変動が含まれるが、近年の温暖化に伴う変化傾向(トレンド)や長期変動の抽出と、その発生機構の研究はほとんど行われていない。そこで、人工衛星観測によるデータや海洋内部の水温、塩分データが蓄積してきた1982年から2014年までの観測データを用いて、インドネシア多島海における海面水温の長期トレンドを見積もり、その発生要因を検討した。
その結果、多島海の平均海面水温は33年間にわたり、10年間当たり0.19± 0.04℃の上昇トレンドを示していることが分かった。また、この海面水温上昇トレンドは季節依存性を持ち、北半球の夏季に上昇トレンドが最大となることが分かった。しかし、海面水温に相当する海洋混合層水温の変動に影響を与える要因の1つである海面熱フラックスには長期の弱化傾向が見られ、海面水温の上昇トレンドを説明できない。一方、降水量の増加傾向に伴い、海洋表層の混合層深が浅くなることが重要な役割を果たしていることが示唆された。これは、海洋混合層深が浅くなることで、海面熱フラックスが効率的に混合層を暖める傾向をもたらすからである。しかし、混合層深の浅化のみでは混合層水温の上昇トレンドを定量的に説明できず、インドネシア通過流の増加傾向に関連した水平熱移流の影響も無視できない可能性が示唆された。
このような海面水温の上昇トレンドにはエルニーニョ/南方振動やインド洋ダイポールモード現象のような経年変動も重なっており、これらの変調の寄与も無視できない。実際、多島海東部やマカッサル海峡南部に見られるトレンドはラニーニャ現象と、また多島海南西部でのトレンドは負のダイポールモード現象と関連していることが示唆された。
(a) インドネシア多島海周辺域における海面水温偏差の長期トレンドの空間分布。トレンドの単位は ℃/10年 であり、1982年から2014年までのNOAA OISSTより求めた。95%有意水準を満たす領域にカラーの陰影をつけている。
(a) Observed trend in sea surface temperature (SST) anomaly (°C/decade) over the Indonesian seas and its
surrounding region during 1982–2014 estimated from NOAA OISST. Significant values above 95% confidence level are shaded.
(b) インドネシア多島海域内で領域平均した海面水温偏差の時間変動(赤線; ℃)および1982年から2014年の線形トレンド(黒線)。
(b) Time series of area-averaged SST anomaly over the Indonesian sea (red; °C) and its corresponding linear trend (black; °C/decade) for 1982–2014.