暖流である黒潮と寒流である親潮の合流域は海面水温(Sea
surface temperature, SST)の南北勾配が顕著な領域であ
り、海洋前線帯と呼ばれている。海洋前線帯の南北におい
ては大気海洋間の熱や水蒸気のやり取りが大きく変わり、
惑星境界層の様子にもはっきりとした差異が現れる。特に
暖候期には、海洋前線帯の北側の冷たい海洋上にて
対流圏下層安定度(Lower-troposphere stability, LTS)
が高く、その領域で気候平均場で下層雲が多く出ることが知られ
ている(Klein and Hartmann, 1993; Norris and Leovy,
1994)。また経年変動についてはSSTと下層雲が正のフィ
ードバックを介して結合変動する可能性が示唆されている
(Norris et al., 1998)。
しかしながらこれまでの研究はJJA平均による解析が主で
あり、暖候期(5-10月)内の季節進行については着目されて
こなかった。そこで本研究では北西太平洋海洋前線帯近傍
における下層雲について気候平均の季節進行および各月ご
との経年変動の要因を探ることを目的としたデータ解析を
行った。雲、SSTについては衛星観測によるデータを使い、
気象場についてはJRA25再解析データを用いた。安定度(LT
S)の指標として、Klein and Hartmann(1994)同様、700hPa
温位と地表温位の差を用いた。
気候平均の季節進行の解析の結果、梅雨期(6-7月)には高い
下層安定度のもとで下層雲量が多く、秋雨期(9ー10月)には
低い下層安定度のもとで下層雲量が少ないという盛夏期(8
月)を境にした非対称性を示すことがわかった。この非対称
性にはSSTの昇温が大気の昇温に比べて遅れることが効いて
いると考えられる。また700hPa温位の昇温をもたらす要因は
西南西風に伴う暖気移流であった。
発表では、経年変動の解析を含めこれまでに得られた結果に
ついて紹介する。今後はsubmonthlyのデータを使って、下層
雲とその分布を特徴づける大気や海洋の状態について解析し
たいと考えている。