北太平洋における海面水温 (SST: Sea Surface Temperature) の長期変動は亜寒帯前線帯 (SAFZ: Sub Arctic Frontal Zone) で顕著であり、この変動に伴う大気場偏差に関する様々な研究が行われている。
本論文では、冬季の SAFZ の SST 偏差に応答する北太平洋の SST 偏差や大気場偏差の季節的な時間発展について、SAFZ を表現するに最小限の解像度をもつ観測データと大気海洋結合モデルを用いて解析を行った。
観測・モデルから互いに整合的な解析結果を得ることができ、秋から冬にかけて持続する SAFZ の SST 偏差に伴う大気場循環偏差は PNA パターンに類似し、等価順圧構造を持ち、地表のアリューシャン低気圧の強度を変動させることが分った。
PNA パターンに類似した循環偏差のシグナルは、SAFZ の SST 偏差に応答する北太平洋のストームトラック活動の変動によって対流圏の気圧偏差が強化されるというフィードバックの下で1月に最も顕著で有意なものになるが、このシグナルは2月には捉えられなくなることが分かった。こうした顕著な季節依存性を示す大気循環偏差は、熱帯には有意な SST 偏差を殆ど伴わず、熱帯からの遠隔影響によってもたらされるとは考え難い。むしろ、SAFZ の SST 偏差への応答として形成され、背景循環場の僅かな違いに敏感である可能性が示唆された。