夏季海洋上に気候平均的に存在する亜熱帯高気圧は海盆の東側に中心を持ち、沿岸湧昇等を通じて沿岸付近の低海面水温に寄与したり、下層大気の安定化を通じて海洋性層雲の発達に寄与していると考えられ、気候システムの重要な一要素である。このような亜熱帯高気圧は海洋性層雲による長波放射冷却と大陸西岸での顕熱加熱からなる海陸間の加熱コントラストによって形成されるとの作業仮説が Miyasaka and Nakamura (2005) により得られている。本研究では CMIP3 マルチ気候モデルで予測される海陸温度コントラストの変化と亜熱帯高気圧の変化について渦位の観点から考察する。渦位反転法を用いて地表の温位偏差に伴う循環を診断することで、海陸温度コントラストと安定度の変化が亜熱帯高気圧の変化にもたらす影響について考察した。海洋上よりも大陸上でより温暖化が進む予測を反映して海陸温度コントラストは強くなることが予測される。その一方で下部対流圏の安定度も強くなることも予測されている。地表付近の安定度の増加は地表温位の渦位としての働きを弱めるように働き、亜熱帯高気圧を弱めようとするが、下部対流圏の安定度の増加がこの弱化の影響を緩和するように働く。このため、海陸温度コントラストの強化による亜熱帯高気圧を強める働きが勝ることが分かった。しかし、気候モデルの予測は渦位反転法で診断されるほど地表気温の変化に対応しないため、渦位反転法では評価しきれない海陸温度コントラストの影響か、あるいは他の要因の影響が強いことが示唆される。