私たちの研究グループでは、東大内あるいは国内外の他の研究グループと共同で、航空機によるエアロゾルと雲の観測を実施しています。




 2009年の春および2013年の冬と夏に、大規模な航空機観測を実施しました。これらの観測では、下層雲(水雲)を対象として雲底下でエアロゾルを測定し、その直上で生成している雲の微物理量を測定する観測を実施しました。2013年の夏には、JAMSTECの船舶“かいよう”との同時観測も実現しました。




 A-FORCE-2009航空機観測では、雲観測を7フライトで計9ケース実施しました。雲底下および雲中の観測は,それぞれ5分間程度(水平距離にして27km程度)高度を一定に保って実施しました。この結果、東アジアのエアロゾルと雲粒数濃度は、これまでの世界各地の観測と比較して、高い濃度レベルにあることがわかりました。また世界各地のデータは、エアロゾルと雲粒数濃度の明確な相関を示していました。

 一般に雲底付近の雲粒数濃度はエアロゾル数濃度とともに増加しますが、同時に気象場も影響します。エントレインメントや降水の影響を無視できるとすると、気象場の影響は雲底付近での鉛直流速度というひとつのパラメータに集約できます。そこで雲粒数濃度とエアロゾル数濃度の比率と、大気最下層の鉛直安定度(SST-T950)との関係を調べたところ、両者に正の相関があることが分かりました。これはSST-T950が大きく鉛直安定度が弱い場合、加熱された大気は対流をおこし、温度差が大きいほど上昇流速度が大きいためと考えられます。上昇流速度の大きい対流中では大気の過飽和度(相対湿度が100%を超える程度)が大きくなり、より小さいエアロゾルまでが雲粒へと活性化され、結果的に雲粒数濃度が増加すると考えられます。

 航空機観測が実施された春季の黄海・東シナ海には、大陸からの寒気移流がたびたびおこります。この結果、SSTの高い黒潮上においては特に気温とSSTとの差が大きくなり、大気最下層の鉛直安定度を弱めます。この寒気移流をともなう北西季節風は同時に大陸から高濃度の人為起源エアロゾルを輸送します。この結果、エアロゾル濃度増大と大気の不安定化の両方の効果により、雲粒数濃度が増大する可能性が示唆されました。SSTと気温の差が大きな黒潮上では雲頂高度も高い一方,差が小さい黄海では雲頂高度が低く雲層厚も薄いものとなっていました。この結果は、西太平洋に特徴的な高いSSTが雲のマクロな様相(雲頂高度,雲層厚,鉛直積算雲水量)とミクロな雲物理量(雲粒数濃度)の両方に影響している可能性を示しています。


 2009年の春および2013年の冬の航空機観測では、長崎県の福江島の観測所の上空で高度7kmから地表付近までスパイラル下降しながらエアロゾル観測を実施しました。そしてこのエアロゾルの直接観測から、詳細なブラックカーボンの粒径分布や混合状態を考慮した光学モデル計算を行いました。この計算結果と地上からのライダーや放射観測との比較をした結果、消散係数や光学的厚みはライダーや地上の放射観測と良く一致していることがわかりました。一方、光吸収エアロゾルの光学的厚みは、ダストの影響に応じて異なった系統的な差異が見られました。

 北極圏の 北緯79°東経12°のニーオルソンにおいて、雲微物理量の連続観測を開始しました。北極圏の雲微物理量の動態や、エアロゾル、放射との関係を調べる予定です。

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