ブラックカーボン(BC)はエアロゾルの中で例外的に太陽放射を強く吸収する

ため、大きな正の直接放射強制力をもつとされています。このため、その削減

へ向けたエミッションデータの整備についての議論がはじめられようとしてい

ます。しかしながら、BCの放射効果には大きな不確定性があります。

BCは発生源からの排出直後には、被覆されていない(あるいは被覆の薄い)

形態をしていると考えられています。BCは大気中において、無機・有機エア

ロゾルの凝縮・凝集過程によりだんだんと被覆(あるいは他成分に付着)され

ていきます。このような変化を、BCの混合状態の変化、と呼びます。

被覆されたBCはレンズ効果により2倍程度まで質量当たりの光吸収率(MAC)

が増加します。これはBCの放射強制力を強めます。一方、BCは水溶性成分に

被覆されることにより雲凝結核特性を獲得し、降水により大気から除去されやす

くなります。この湿性除去はBCの大気からの除去の主要なメカニズムで、これ

は特に遠隔地でのBCの放射強制力を弱めます。このようなBC混合状態の変化

や、それに伴うMACの増大や湿性除去過程を正確に計算することができないこ

となどが、BCの不確定性の原因となっています。

 

 

 

地球温暖化の抑制のために、BC排出量の削減が注目されています。しかし

BCの発生源からは、BC以外の、負の放射強制力をもつ無機・有機エアロ

ゾル成分も生成するため、その削減は負の放射強制力の減少ももたらします。

これらの総合的な評価を、するためには数値モデルによりBCの混合状態など

を正確に計算することが必要です。私たちは、名古屋大学の松井仁志氏が開発

したエアロゾルモデルを使った計算などにより、BC削減効果の評価などを行

っています。

 

 

 

北極温暖化には、北極の雪氷面に沈着したBCの光吸収がアイス・アルベド・

フィードバックを加速する効果も重要である可能性があります。しかしながら、

北極BCの測定や数値モデル計算には大きな不確定性があります。

北極大気中のBCは、さまざまな発生源の影響を受けていると考えらえています。

中緯度にはアジアをはじめとする巨大な人為的なBC発生源があります。しかし

暖かい(温位の高い)中緯度の大気は北極に輸送される際に必然的に高い高度へ

輸送され、その過程で降水を伴うため、BCの多くが降水により除去され、一部の

みが北極まで輸送されると考えられます。高緯度(ロシア、アラスカ、カナダ)の

森林火災はBC発生源としては中緯度ほどではありませんが、あまり降水除去をう

けないまま北極へと輸送されます。北極内には、油田でのガスの燃焼(フレアリン

グ)により少量のBCが発生していますが、これらは北極内での発生源であるため

に、インパクトが大きいと考えられています。

BCは大気中に排出された時には裸に近い形をしており、大気中において無機・有

機エアロゾル成分と凝縮・凝集(condensation and coagulation)することにより

被覆されます(内部混合する)。この結果、BCは雲凝結核特性を高め、雲・降水

過程により除去されるようになります。したがって、降水による除去過程とともに、

大気中でのBCの混合状態の変化の理解とその数値モデル化が重要となってきます。

 

 

 

北極内でのBCの動態を正確に把握するために、東大で開発されたBC測定器

COSMOSを使った観測を、国立極地研究所と共同して、国際共同研究プロジェ

クトとして実施しています。現在までに、アメリカ、ノルウェー、カナダ、ロシ

アでの観測を立ち上げています。これらの観測の結果、従来報告されてきた大気

BC濃度は過大評価されていたことなどが明らかとなってきました。また同じ

測定器でこれらの観測点で観測することにより、各領域でのBCの絶対値の違い

などの特徴も明らかとなってきました。北極でのBC測定の標準化を目指して、

北極評議会の国々と連携した研究を進めています。

 

 

 

20183-4月には、ドイツのAWIが中心となって実施したPAMARCMIP

2018航空機観測に参加しました。この観測プロジェクトで私たちは、観測機

POLAR5上でのブラックカーボン(BC)の測定などを担当し、全フライトで

高精度のデータの取得に成功しました。これまでの観測プロジェクト(NASA

ARCTAS)では、高度4-5 qに高い濃度のBCが観測され、それがロシアの

森林火災などの影響であることを明らかにしてきました。今回の観測でも同様

な濃度増大が観測されているため、BCの発生源や輸送過程について、より詳し

く解析を実施する予定です。