2011 年度 第 13 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 12 月 1 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 佐藤 大卓 (東大先端研)
講演題目 暖候期北西太平洋域における下層雲の季節進行
概要
暖流である黒潮と寒流である親潮の合流域は海面水温(Sea surface temperature, SST)の南北勾配が顕著な領域であ り、海洋前線帯と呼ばれている。海洋前線帯の南北におい ては大気海洋間の熱や水蒸気のやり取りが大きく変わり、 惑星境界層の様子にもはっきりとした差異が現れる。特に 暖候期には、海洋前線帯の北側の冷たい海洋上にて 対流圏下層安定度(Lower-troposphere stability, LTS) が高く、その領域で気候平均場で下層雲が多く出ることが知られ ている(Klein and Hartmann, 1993; Norris and Leovy, 1994)。また経年変動についてはSSTと下層雲が正のフィ ードバックを介して結合変動する可能性が示唆されている (Norris et al., 1998)。

しかしながらこれまでの研究はJJA平均による解析が主で あり、暖候期(5-10月)内の季節進行については着目されて こなかった。そこで本研究では北西太平洋海洋前線帯近傍 における下層雲について気候平均の季節進行および各月ご との経年変動の要因を探ることを目的としたデータ解析を 行った。雲、SSTについては衛星観測によるデータを使い、 気象場についてはJRA25再解析データを用いた。安定度(LT S)の指標として、Klein and Hartmann(1994)同様、700hPa 温位と地表温位の差を用いた。

気候平均の季節進行の解析の結果、梅雨期(6-7月)には高い 下層安定度のもとで下層雲量が多く、秋雨期(9ー10月)には 低い下層安定度のもとで下層雲量が少ないという盛夏期(8 月)を境にした非対称性を示すことがわかった。この非対称 性にはSSTの昇温が大気の昇温に比べて遅れることが効いて いると考えられる。また700hPa温位の昇温をもたらす要因は 西南西風に伴う暖気移流であった。

発表では、経年変動の解析を含めこれまでに得られた結果に ついて紹介する。今後はsubmonthlyのデータを使って、下層 雲とその分布を特徴づける大気や海洋の状態について解析し たいと考えている。