2011 年度 第 6 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 7 月 14 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 大島 長 (気象研究所)
講演題目 春季東アジア域におけるブラックカーボンの輸送過程と除去過程の研究
概要
 ブラックカーボン (BC) エアロゾルは太陽放射を効率的に吸収し、大気を加熱し地表面を冷却することにより、地球の放射収支に大きな影響を及ぼす。BCの輸送過程および除去過程 (湿性沈着過程) は、BC の三次元的な空間分布および加熱源分布を決定するので、これらの過程を理解することはエアロゾルの気候影響を評価する上で非常に重要である。しかしながら、特に BC の除去過程は、その理解が未だ不十分であり、数値モデルでエアロゾルの放射影響を計算する際の大きな不確定要因となっている。
 2009 年 3-4 月に A-FORCE (Aerosol Radiative Forcing in East Asia) 航空機観測が東アジア域において実施された。本研究では、航空機によって観測された BC と一酸化炭素 (CO) 濃度のデータを用いて、春季東アジア域におけるBCの輸送過程と除去過程を理解することを研究目的とした。さらに領域三次元化学輸送モデルを組み合わせることで、春季東アジアにおける BC の空間分布を理解することを目的とした。
 フライト 8 (2009/3/30) では、黄海上の高度 3-6 km で、高濃度の CO と BC が共に観測された。これらの空気塊は、中程度の降水活動を伴う低気圧活動によって、中国華北域で上空へと輸送されていた。一方フライト 19 (2009/4/23) では、東シナ海上の高度 5-6 km で、CO が高濃度であったにもかかわらず、BC 濃度の増大は観測されなかった。これらの空気塊は、強い降水活動を伴う積雲対流活動によって、中国華中域で上昇し、上空の西風によって輸送されていた。
 A-FORCE 航空機観測の全期間のデータを用いて、高度 2 km 以上で観測された空気塊中の BC の除去過程を支配する要因を調べた。その結果、観測から推定された BC の除去率は、主に空気塊が輸送中に経験する降水量によって支配されることが分かった。また BC の除去率は、空気塊が観測された高度と、空気塊が上昇した緯度帯(華北域、華南域など)に依存していた。
 これらの結果は、領域三次元化学輸送モデルで計算された結果とも整合的であり、モデル結果はよい精度で観測を再現することができた。春季東アジア域では、低気圧や積雲対流活動に伴う上方輸送過程と降水活動の強度が、BC の除去率や上空への輸送量を決めており、BC の広域的な空間分布を決定する上で重要な役割を果たしていた。