2010 年度 第 24 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 1 月 20 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 佐藤 大卓
講演題目 論文紹介: Watanabe, 2004, Asian Jet Waveguide and a Downstream Extension of the North Atlantic Oscillation, Journal of Climate, Vol 17, 4674-4691
概要
 本論文では、北大西洋振動(NAO: North Atlantic Oscillation) の影響が空間的に及ぶ範囲を調べるために、経年変動および季節内変動の時間スケールで NAO に伴う大気場偏差の解析が行われた。
 まず経年変動の解析から、NAO に伴う偏差は、初冬 (12月) には欧州・大西洋域に限定される傾向があるが、晩冬 (2月) には東アジア・北太平洋にまで及ぶ傾向を示した (downstream extension)。この違いは南北風偏差により明瞭に見られ、遠隔影響の水平構造はアジアジェットに沿った波列パターンを成す。さらに、ジェットの入り口には Rossby wave source を伴っている。線形順圧モデルを用いた診断の結果は、波列パターンがアジアジェットに捕捉された準停滞性ロスビー波であるという先行研究 (Branstator 2002) とも整合するものであった。さらに波列が、地中海上空の対流圏上層に収束偏差を伴うときに見られることも明らかにした。
 次に,季節内変動のスケールからも解析を行い、上記と同様の結論を得た。さらに、downstream extension が NAO の減衰時に現れることも特定した。先行研究 (Feldstein 2003) によれば、地中海上空上層の収束偏差は Ekman pumping によって引き起こされる。著者はそのシグナルが NAO のピーク 5日前から検知できることを示し、NAO の東アジアへの影響がある程度の予測可能性を有することが指摘された。
 本セミナーでは上記論文紹介に加えて、発表者が行った解析結果も紹介する。ここでは NAO に伴う偏差ではなく、冬季にアジアジェット近傍で月平均場に卓越する南北風変動を抽出し、上記論文が着目したような波列構造が見られることを確認した。その波動擾乱について,平均場とのエネルギー変換を評価した結果、擾乱は効率的に基本場からエネルギーを受け取れることが確認された。さらに、卓越する偏差パターンを人為的に東西変位させた上でエネルギー変換効率を評価することで、冬季を通してモード性が弱いことが見出された。これは夏季についての先行研究 (Kosaka et al. 2009) とは対照的な結果であり、冬季と夏季におけるジェットの東西構造の違いに起因するものと考えられる。