2010 年度 第 16 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 10 月 14 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 1 宇井 麻衣子
講演題目 春季東アジアのエアロゾル数濃度分布とその雲微物理影響
概要
 エアロゾルの間接効果は地球温暖化を引き起こす放射強制力の最大の不確定要因となっている。特に東アジアは人間活動によるエアロゾルの増大が世界的に見ても著しく、エアロゾルの間接効果が大きいと考えられるため、その数濃度や雲物理量への影響評価が重要である。
 しかしこれまでのグローバルモデルでは、エアロゾルや雲物理の扱いが簡略化されており、一方、エアロゾルの数濃度や粒径分布を詳細に計算する領域モデルでも、最終的な降水影響のみが示され、エアロゾルや雲物理量の変化が示されていない。
 本研究では、エアロゾルと雲との相互作用を表現した領域三次元モデルである WRF-chem を用いて、東アジアでのエアロゾルの間接効果を評価する。そのために、まず東アジアのエアロゾル数濃度・粒径分布の特徴の解析を行った。さらにエミッション (大気中への物質の放出) を 1/10 にした計算を行い、数濃度・分布の変化を調べ、それらを支配するプロセスについて考察した。今後は、エアロゾルが雲物理量へ与える影響の評価へと研究を進める予定である。
講演者 2 高麗 正史
講演題目 CALIPSO 衛星搭載ライダー観測データを用いた極成層圏雲変動の解析
概要
極成層圏雲 (Polar Stratospheric Cloud, PSC) は低温な下部成層圏極域に出現する雲である。PSC の多くの観測や実験によって、その組成やオゾンホールの形成における役割が明らかになっている。一方、先行研究では、ロスビー波や総観規模擾乱、重力波等の大気波動が、極域下部成層圏の気温変動をもたらし、PSC の形成に影響を与えることが指摘されている。しかし、下部成層圏に存在する様々なスケールの擾乱と PSC の関係を包括的かつ定量的に解析した研究は少ない。本研究では、PSC の出現頻度に大気波動 (成層圏プラネタリー波、対流圏界面付近の波動、重力波) が与える影響を定量的に推定することを目的とした、南半球冬季のデータ解析を行った。極成層圏雲の変動の解析には、衛星ライダー観測データを用い、気象場の解析に再解析データや GPS 掩蔽観測データを用いた。総観規模以上のスケールの擾乱について、渦位に基づいた解析を行った。東西波数 3 以下の成層圏中層のロスビー波と東西波数 4 以上の対流圏上層の高気圧性の傾圧波が、PSC の出現する高度の温度の変動に影響を与えることが分かった。擾乱の東進に伴う PSC の出現領域の移動する事例が複数確認された。また、擾乱による PSC の増減への全球での正味の影響を評価した。PSC 出現のための温度閾値より温度が低くなる面積を計算し、擾乱が PSC の被覆面積に与える効果を見積もった。重力波については、いくつかの観測及びモデル研究で指摘されているように、重力波のポテンシャルエネルギーは南極半島付近で大きくなっていることが確認された。PSC の出現頻度を調べてみると、重力波のポテンシャルエネルギーが大きい領域と小さい領域で、有意な差が見られた。