2010 年度 第 12 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 7 月 9 日 (金) 15:30〜17:30
講演者 三瓶 岳昭 (会津大学先端情報科学センター)
講演題目 梅雨降水帯形成の大規模場の力学とジェット気流の役割
概要
 日本の梅雨、中国のメイユは東アジアに現れる一ヶ月以上にわたる降雨期であり、しばしば豪雨被害をもたらす一方、夏季の水資源を供給する重要な現象である。本研究では、大規模場の梅雨降水帯の形成について、気候力学的な立場から議論する。

 梅雨降水帯については多くの研究があり、下層の南西風による水蒸気供給、降水帯の南方に伸びる亜熱帯高気圧、地表の低圧部と水平風速シア、強い水蒸気量・相当温位勾配などが重要と指摘されてきた。これらは確かに重要だが、必ずしも梅雨の形成原因と言えるわけではない。なぜなら、梅雨の降水に伴う非断熱加熱は周囲に大気循環偏差を励起しているので、これらの特徴は梅雨降水の結果という可能性もあるからである。実際、線形傾圧モデル(LBM)に梅雨を模した凝結加熱を与えると、応答には東西に伸びる地表低圧部、水平風速シアと南側の南西風強化、降水帯における上昇流などの特徴がみられた。
 そこで本研究では、経験的に知られていた梅雨降水帯とジェット気流の位置の関係に着目し、梅雨形成について解析した。まず、風速場の LBM 応答が弱かった対流圏中層について、JRA データを用いて熱力学バランスを調べたところ、梅雨降水帯は正の水平温度移流の領域とよく一致しており、前後一ヶ月にも同様の一致が見られた。降水に伴う非断熱加熱は暖気移流によってはバランスできない事、LBM 応答には加熱域に一致するような水平暖気移流が見られなかった事からして、この暖気移流が梅雨降水の結果とは考えにくい。そこで、下層が暖湿である条件の下、中層の水平暖気移流が上昇流を励起することで対流活動を活発化させ梅雨降水帯が形成する、という仮説を提示する。この中層暖気移流は、チベット高原南縁付近の高温域の下流に、ジェット気流の南側に沿って形成していた。対流活動に伴う大きな非断熱加熱は上昇流を強化するフィードバックをもたらすとともに、LBM 応答に見られるような梅雨に特徴的な循環偏差を生じさせる。一方 SST の低い日本東方海上では対流活動が起きにくく、上昇流はあまり強化されない。
 次に、ジェット気流に沿った移動性擾乱の活動も降水帯の形成に寄与していることが考えられる。平均的な大気安定度からすると、梅雨降水帯よりその南方のほうが対流が起きやすいはずだが、擾乱活動に伴う中層の温度変動や下層の水蒸気量変動は北緯 30 度以北で大きく、対流をトリガーしやすいと考えられる。実際、安定度と中層温度移流の確率密度分布の解析から、強い不安定・中層暖気移流の両方が発生する確率は、梅雨降水帯で大きくなることが分かった。

 まとめると以下のような概念モデルとなる。背景として大陸海洋の温度差・気圧差に伴う南風により、東アジアの下層には暖湿空気が流入している。東南・南アジアモンスーンの発達により、インドシナ北部からチベット高原にかけて中層に高温域が形成し、ジェット気流に沿って下流の長江流域・日本付近の中層には暖気移流が発生する。この暖気移流に励起された上昇流が対流活動を活発化する。またジェット気流に沿って伝播してくる擾乱も対流の発生機会を増やし、ジェットに沿った降水帯の形成に寄与する。降水に伴う非断熱加熱は上昇流の強化、地表の低圧部形成、水蒸気に富む南西風の強化等を通じた正のフィードバックをもたらし、観測されるような顕著な梅雨降水帯が形成する。