2010 年度 第 4 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 5 月 13 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 西井 和晃
講演題目 西太平洋パターンと冬季極域成層圏の気温低下
概要
西太平洋パターン (以下 WP パターン) は、北西太平洋上での高度場偏差の南北の双極子構造で特徴づけられる代表的な遠隔影響パターンの一つであり、特に極東域での天気及び気候変動に極めて重要である。この研究の目的は、正の位相の WP パターンが、1カ月程度続く極域成層圏の低温を引き起こし、極成層圏雲の増大をさせ得ることを示すことである。北大西洋域の、500-hPa 高度場偏差の経験直交関数解析の第1モードとして WP パターンを定義した。また、日々の WP パターン指数は、日々の高度場偏差の WP パターンへの射影をとることにより定義した。この指数が極大を示した 18 事例を抽出し、それらの合成図解析を行った。合成された北極域成層圏温度は、WP パターン指数の極大日から約1カ月程度低温化していた。この低温化は、指数の極大日直後に発生した、対流圏界面以上での極向き渦熱輸送の減少を伴っていた。この減少は成層圏へ伝搬する上向き惑星波の弱化を示し、対流圏での惑星波の振幅の減少を示唆している。これは極東域に気候学的平均として存在する気圧の谷が、正の WP パターンの発達に伴う東から進展してきた高気圧性偏差によって覆われ、惑星波全体としての振幅が弱まった結果である。総観気象的には、この WP パターンの発達はロスビー波の砕波を伴ったオホーツク海北でのブロッキング高気圧の形成としてみることができる。このことから、本研究では、ブロッキング高気圧が極域成層圏の (昇温ではなく) 低温を引き起こし得る事例が示された。