Kaoru Sato's Laboratory

成層圏突然昇温と成層圏界面ジャンプ

北極の成層圏では突然に気温が数十度も上昇する、突然昇温とよばれる現象がしばしば起こります。
図1はAura MLSと呼ばれる衛星で観測された北極域の気温の時間高度断面図です。高度30km付近において、1月20日ごろ210Kぐらいだった気温が260Kまで60度も一気に上昇しています。
成層圏界面(気温の極大)は冬の極域では通常高さ55km付近にありますが、それが30kmまで下がったというようにもみえます。
そして、面白いことに、この気温極大(成層圏界面)は弱まり、2月5日ごろから高さ80km付近に新たな気温極大が見え始め徐々に下がって通常夏の成層圏界面の位置、約50kmに至ります。
この2月5日ごろの成層圏界面の大ジャンプは、2006年に初めて発見され、強い突然昇温が起こった年に見られることがわかってきています。

図1 Aura MLSによる気温の時間高度断面図。2008年11月~2009年6月。70°N~80°Nの平均値。

極めてよく似た突然昇温と成層圏界面ジャンプは、重力波が解像できる高解像度大気大循環モデルによるシミュレーションでも起こっていました。
図2の一番上の気温の時間高度断面図を見てください。突然昇温が起こって15日後ぐらいから高度75km付近に気温極大が現れていて、図1の現実大気の成層圏界面ジャンプとよく似ています。

そこで、この事例について詳しい研究を行いました (Tomikawa他, 2008)。
このときの中緯度の東西平均東西風を図2の二番目の図に示します。通常冬は西風(プラスの値)なのですが、突然昇温時には東風(マイナスの値)になっていることがわかります。
そして、東風が高さ40km以下では20日間以上残り、高さ60kmで強い西風が現れ、徐々に下降してきます。

図2 高解像度大気大循環モデルシミュレーションに現れた突然昇温と成層圏界面ジャンプ現象

図2の3番目と4番目の図はそれぞれプラネタリー波(ロスビー波の中で地球規模の大きな波)と重力波による平均風加速を示します。これを波強制と呼びます。
突然昇温が起こる直前、高さ50kmを中心にプラネタリー波の負の波強制があり、これが突然昇温の直接原因であったことがわかります。

重力波強制は突然昇温のまえ(図の左端)では高さ70km付近で大きく負の値になっていますが、これが実は成層圏界面を維持しています(大気大循環のところを参照)。
突然昇温が起こると大きな負の値を持っていた重力波強制は弱くなって、正となったため、成層圏界面が消えたと理解できます。
そして昇温が弱まり東風が弱くなると再び負の重力波強制が復活してきます。
しかし、その強制は通常よりも弱いため、成層圏界面は高い位置に現れるということになります。

面白いのは、突然昇温が終息した後、高さ40km以下で正の重力波強制が見られることです。正なので西風加速です。そして、時間と共に徐々に下降してきます。
この下がり具合が西風の復活とよく対応するのです。

つまり、突然昇温はプラネタリー波が引き起こすが、その回復には重力波が大切な役割を担っているということになります。

(Tomikawa et al., 2012)より。

突然昇温と最終昇温のリスト(JRA-55より作成):XLSX


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