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Research

子午面循環は閉じているのか?

子午面循環とは寒い極域で沈み込んだ深層水が乱流混合の影響をうけて密度が低くなり、より浅い層で極域に戻る海洋の南北の循環です。 熱い赤道と寒い極域の間の熱輸送だけではなく、大西洋の高い塩分や高緯度中層に沈み込んだ人為起源二酸化炭素を全球海洋に分配する役割があります。 この循環を物理的に説明するのは海洋物理学の仕事ですが、実はまだ観測データは矛盾なくこの循環を説明できていません。

インド洋

インド洋の運動エネルギー散逸推定値 J. Geohys.Res., 2021, Copyright Wiley

Huussen et al. (2012) が大変面白くて、スクリプス海洋研究所 に 半年滞在した際に真似してみました。より新しいデータや改善した手法で鉛直拡散を推定してみました (Katsumata et al., 2021)。やはりインド洋の子午面循環を 説明するには観測されている乱流は足りませんでした。乱流がイベント的(対数正規分布のような頻度分布をしていると予想されている)だったり 海底近くや赤道の乱流がうまく説明できてないのが原因ではないかと考えています。

太平洋

いまやっています。

使いやすい船舶観測データ

GO-SHIP 計画により定期観測が行われている線 Scientific Data, 2022, CC-BY

アルゴフロートを代表とする自動観測や人工衛星による海洋の観測は革命的です。でも、ほとんどのアルゴフロートが測れない 2000 m 以深や 温度塩分以外の海水の性質(二酸化炭素・栄養塩・フロンなど)は船舶でないと測れません。そもそもアルゴフロートは高精度の較正データが 投入時に必要です(すべてのフロートでなくてもよいですが)。船舶観測なくして海洋学は不可能です。 船舶を用いた高精度観測はGO-SHIPという組織が手法の標準化や観測の調整(同じところを二つの国が同時に観測するのは 無駄)を行っています。観測されたデータは必要な補正・較正をおこなって CCHDO というデータセンターで無料で 公開されます。このデータセンターのデータは「航海ごと」にまとめられていていまひとつ使いにくいので「観測線ごと」に再編集して、さらに 高精度の塩分補正をほどこしました(Katsumata et al., 2022)。 プロダクトGO-SHIP Easy Oceanソース ともども公開されています。

アルゴフロートから推定した渦輸送

フロートで推定された渦輸送 J. Phys. Oceanogr., 2016, Copyright American Meteorological Society

海洋は渦だらけです。というか、渦が海洋循環の主役(という趣旨の長話の動画) です。 渦は物質を輸送する働きがあるので海洋循環の「強さ」を語る際には重要ですが、観測が難しい。船で一回測るだけだと 「渦」と「渦でない部分」を分解するのが難しいし、人工衛星は海表面しか測れません。アルゴフロートは 10 日に一回表層に頭を出すので この場所を追っかけて行けば 10 日間のアルゴフロートの漂流している深さ(ほとんどの場合 1000 m 深)の流速が推定できます (Katsumata & Yoshinari, 2011)。これを用いて 全球海洋の渦輸送を推定できます(Katsumata, 2013)。

南大洋の循環・力学

南緯 30 度に沿った等密度面の変位 Prog. Oceanogr., 2011, Copyright Elsevier, License 5751670054585, 17/03/2024

当時 JAMSTEC 観測フロンティアを率いていた杉之原さんに「みらい」南半球周航 のデータの解析をやらんかと声をかけていただきました。2002・2003 年に南大洋の緯度 30 度にほぼ沿った線に沿った観測で、1990 年代の 観測と比べて太平洋南極海盆深層で塩分が低下していること などが分かりました (Katsumata & Fukasawa, 2011)。 このデータはのちほど箱インバースモデルで南大洋の子午面循環の強さを推定するのにも用いました (Katsumata et al., 2013)。

豪州北西陸棚上の内部潮汐波

豪州北西陸棚上の半日周潮汐波のエネルギー J. Geophys. Res., 2010, Copyright Wiley

オーストラリアで 潮汐が大きいことで知られる豪州北西陸棚で観測データ解析を行いました。海洋内部で生じる潮汐波の季節変動を 議論しました(Katsumata et al., 2010)。

オホーツク海と北太平洋の交換流

ブソル海峡で観測された日周期潮汐流 J. Geophys. Res., 2004, Copyright Wiley

北大のプロジェクトでクロモフというロシア船に乗りオホーツク海と太平洋をつなぐブソル海峡を集中観測した結果です(Katsumata et al., 2004)。 同じ点で何度も観測をすることで、潮汐とそれ以外(潮汐残差流)を分離し、前者が非常に強いこと(1000 m 深さで 1 m/s 以上)を示し、後者による輸送量を 推定しました。