海に出て水温を測る。緯度 Y 経度 X 圧力 Z 時刻 T で水温が分かる ― ような気がするが、本当に知りたかったのは 大洋規模の海洋循環の議論に使えるようなその領域・時間を代表する水温 T' である。しかも水温計が壊れているかもしれないし たまたま台風通過後で長時間平均より水温が低い時かもしれない。 こういう時は詳細な議論はあきらめて、T は T' の「近く」にあるものと期待して、そのずれ「T - T'」は確率を用いてしか語れない「確率変数」と考えるのが常套である。
となると、例えば T の時系列を観測してそれをローパスフィルタかけて云々、みたいな作業をするときは確率変数を積分 していることになる。積分とは小さな時間 ΔT で短冊をこさえてその面積を足し上げることだが、横の長さ ΔT は分かるとして 立ての長さ T が確率変数で積分するとはこれ如何に。
ということで大昔に伊藤清の『確率論』に挑戦して砕け散ったことがある。 このたびとある縁で小倉久直の『物理・工学のための確率過程論』という教科書に出会った。で、読むならこっち読んどけと当時の自分に熱く語りたい。要を得て深入りしすぎない実用的な確率変数の定義から始まって、特性関数や中心極限定理をおさらい。当然重要になる確率変数の積分 (= quadratic mean 積分)なんかもきちんと定義されて話は定常過程に移る。相関取ってスペクトル空間導入してエルゴード性も分かる。なんで本来ならばアンサンブル平均すべき相関やパワースペクトル密度が時間積分してよいかが分かる。当然どんなときにそれが許されるかどうかも分かる。
よく知られているように FFT でパワースペクトル密度を推定すると誤差 100 % になってしまうのだがこのあたりの事情も FFT の二次モーメントからさっくりと示されていて鮮やか。昔ながらのカイ二乗分布を使う説明も分かりやすいのだが。
今回はオチが無いのだが良い教科書に出会えてよかったなということで。