16 Apr 2026 訂正
等方的な乱流にかき混ぜられる流体が引き延ばされる速さが指数関数的だということで Cocke (1969) という論文を読んでみた。よく見るとこれは三次元であった。二次元はどうなんだろというと三次元よりずっと簡単に示せるのでメモ。
流体中にぽとりと落ちた伸びる糸くずを考える。伸ばすのに力がいらないごむ紐のようなものだと思うと乱れる流れ場にのってこの糸くずの 長さは\[ \frac{\mbox{d}}{\mbox{d}t}\delta l = (\delta l\cdot\nabla)\boldsymbol{u} \] と発展することは、糸くずの北端を \((x^N_0, y^N_0)\) 南端を \((x^S_0, y^S_0)\) などとおいて(別に東端と西端でも良いのだけれど)、 時間が少しだけ \(\Delta t\) 経過したあと北端が \((x^N_1, y^N_1)\) に移動したなどと考えて、\(x^N_1 - x^N_0 = u_N\Delta t\) などとおいて図を描いて考えると分かる。Cocke (1969) の (1) 式。これに (2) という解があってその中身が (3) であるところは良しとする。 ちょいと \(\delta l\) が何とも描きにくいしベクトル感出てないので \(\boldsymbol{p}(t)\) と書かせてもらう。初期状態は \(\boldsymbol{p_0}\).
ある時刻 \(t\)
における糸くずの長さは \[
|\boldsymbol{p}|^2 = \boldsymbol{p}^T\boldsymbol{p} = \boldsymbol{p_0}^T
U^T U \boldsymbol{p_0}
\] も元論文の(2) から良し。で、味噌は \(W = U^T U\) とおいた行列 \(W\)
は実対称行列だからその固有ベクトルは直交するってこと。それを \(\boldsymbol{e_1}, \boldsymbol{e_2}\)
とおくことにする。対応する固有値は \(w_1,
w_2\) と Cocke (1969) のママ。そうすると 初期条件の成分を \(\boldsymbol{p_0}^T\boldsymbol{e_1} = p_1\)
などと書くことにすれば糸くずの長さは常に正だから \[
|\boldsymbol{p}|^2 \equiv p^2 = w_1 p_1^2 + w_2 p_2^2
\] と論文中の (4) の下の式が成り立ってこれがあらゆる\(\boldsymbol{p}\)
で成り立つのだから固有値の符号は \(w_1 > 0,
w_2 > 0\) でないといけない。
三次元だとオイラー角というややっこしい考察が必要なところが二次元だと話がラクで初期状態で
\(\boldsymbol{p_0}\) と \(\boldsymbol{e_1}\) のなす角を \(\theta\) とすれば 時刻 \(t\) では \[
|\boldsymbol{p}|^2 = p_0^2 (w_1 \cos^2\theta + w_2 \sin^2\theta)
\] と書ける。 等方乱流だから\(W = U^T
U\)の固有ベクトル \(\boldsymbol{e_1},
\boldsymbol{e_2}\)と糸くずの向きに関係性などあろうはずもなく、
アンサンブル平均を考えれば \(\langle\cos^2\theta\rangle =
\langle\sin^2\theta\rangle = 1/2\)
となりそうなものである。三角関数の二乗の一周期の平均。
だから糸くずの長さの「伸び率」は平均的には \[
\left\langle\frac{|\boldsymbol{p}|^2}{|\boldsymbol{p_0}|^2}\right\rangle
= \frac{1}{2}(w_1 + w_2)
\] ここで元論文にならって 凸関数
たる \(h(x) = -\ln x\) を用いて \[
h(\langle\frac{|\boldsymbol{p}|^2}{|\boldsymbol{p_0}|^2})\leq
\frac{1}{2}(h(w_1) + h(w_2))
\] で、これは固有値 \(w_1,
w_2\) の符号を思い出せば結局 \[
\ln \langle\frac{|\boldsymbol{p}|^2}{|\boldsymbol{p_0}|^2}\rangle > 0
\]
となり、「伸び率は指数関数的」であることが示された。
で、実際の大気海洋は Richardson (1926) や
Garrett
(1983) が指摘するように代数関数的に延びることもあってそれはつまり
等方的ではない そーいうものなのだろうと。
16 Apr 2026 訂正
とおもって悦に入っていたら石井さんに \(w_1 w_2 > 0\) では駄目で \(w_1 w_2 \geq 1\) が必要であることを指摘された。まったくその通り。 元論文の指摘する通りこれは速度場が非発散であれば \(w_1 w_2 = 1\) が言えるのだが、二次元海洋の 連続の式 \[ \frac{\partial h}{\partial t} + \frac{\partial}{\partial x} (u h) + \frac{\partial}{\partial y}(v h) = 0 \] を考えると非発散と言えるのは \(h\) の時間変化が無視できるような状況でなければいけないことが分かる。\(h\) の時間変化は \(L / \sqrt{g h}\) くらいの時間スケール(\(L\)は代表的水平スケール)だけれど今は成層を考えていない(ゆっくりな内部モードは無視している)というお約束だから ちょいと無理がある設定になってしまう。というわけで結論としては二次元等方乱流は指数関数的に成長することもあるがそうでないこともある、という なんとも役立たずになってしまった。