「大統領が大気海洋庁の気候研究停止へ」 ということで遂にこちらの業界も対岸の火事と言っていられなくなってきた。議会を通過するという条件がついているが、 眞鍋さんのいるGFDLを始め、 アルゴのデータセンタとしておなじみ AOML や太平洋観測のパートナー PMELの予算が "eliminate" ほぼゼロになるほか、 船舶データの宝庫NCEI も予算大幅削減、と。
大規模な海洋大循環の実測データは、表面では人工衛星観測(海面高度・水温・塩分・風)でこれは当然大打撃。海洋内部では 船舶観測 GO-SHIP とアルゴフロートが二本柱であるが、両者ともざっくり言って 全世界のデータの半分が米国大気海洋庁由来である。GO-SHIP とアルゴが半減すれば, 全球で海面高度や熱の収支を計算する際に付随する誤差棒はかなり大きくなってしまう。
はっきり言って観測データで地球のエネルギーなり物質収支を科学的に議論するのはもうあきらめるしかないのではないか。 そのような計算は ocean state estimate(日本語あるんですか?海洋状態推定?)というか四次元同化でやるように なっていくのではないか。とはいえ米国の state esimate の雄 ECCO も NASA で まったく安泰ではない(ただ大学 とか国外に分派はあるし、ほぼ独立した日本のもあるし)。
そうすると海洋物理の研究としてこの動きに協調するのはプロセス研究ということになる。とくにシミュレーションが苦手な 混合・深層水形成・海氷をよく理解してシミュレーションにフィードバック。あと海洋生態系の活躍する場としての理解とか。
ただこのタイミングで独裁者がナタをふるっているのは単なる狂気ともいいきれず、2016 年の CSIRO の気候研究大削減事件 でも議論されたように人々はもう気候変動ネタにあまり振り向かなくなっているという潮流もあると思われ。 これからは mitigation 緩和策だ!とかいう話もある。(これはこれでいろいろ問題はあるらしいけれど。) そういう文脈で米国大統領が替わった後も GO-SHIP とアルゴが元に戻るかどうかはあんまり明らかではない。
この高レイノルズ数二元(binary: 温度と塩分のこと)希薄水溶液の流れそのものの 面白さが伝えられれば良いのだろうとは思うがなかなか。単純化した大気循環モデルから カオスが出るみたいなことって海洋ではないだろか。