先日なんかの発表で「南極では海氷ができるときに塩分が排出されて重くなった海水が沈み込んで南極底層水を作ります」みたいな話をしたが、 断面図を見ると、南極底層水は塩分が「低くて」 どちらかといえば、温度が低いから密度が高い海水なのである。 「塩分が排出され」た結果、低塩分の海水が生じるとはまことにわかりにくい。答えは別件で読んでいた Abyssal Recipes にあった。塩分が排出された重たい水は沈み込むときに 周りの低温低塩分な水を巻き込むというのが答え。これで40 倍以上薄まるというのが Munk の見立て。 CFC は海水中で完璧に保存するので、こいつをみてやると沈み込み終端の「崖下」で混合層から 10 ~ 30 % くらいに薄まっているというのが Orsi et al. (1999) の表4。これは崖下からゆるゆると流れていくときにさらに 5 から 20 倍くらい 薄まるらしい(Haine et al. (1998))。 つまりは AABW には海氷の水はほとんど入っていなくて陸棚の周りの冷たい海水からできている、と。 Ohshima et al. (2013) の図3 を見ると深さ 1500 m くらいまでは「高塩分」の特徴を保っていたりする。 ほかにも鉛直対流の混合効率は 0.2 より ぜんぜんでかいとかいろいろ事情がありそう。少なくとも海氷ができているあたりの上層はほぼ密度一定でちょっと重くなっただけでずどんと 沈みそうなことは Gill (1973) の図 2 から分かる。 この論文にはポテンシャル水温 -1 度塩分 34.57 パーミルの海水が特異的に安定成層の中を対流する現象(密度の温度依存性が圧力とともに高まるせい) とかいろいろ面白そうなことが書いてある。