海洋中の混合過程を知ることはできるか




22 Apr 2022

中立面が定義されたのが 1987 年だからもうすっかり当たり前のような気がしていたところに、 こっそりと反論があったのが 2011 年。読んでみるとなかなか説得力があって、なんとか観測データからこの辺りを詰められないかと思ったのだが何もできず早 10 年。 なんかのときに McDougall 氏にあの反論どうすか?と聞いたら、いやあれ間違えてるからと即答されて理由を聞く機会も無くなんとなく自分の中で風化してしまった。 実際引用数は本家の一割以下で世間でも風化しているというかはなから相手にされていないのか。自分がちゃんと中立面を理解していないのか、太平洋で 3000 m 深にある UCDW が同じ中立密度で南大洋で 1000 m より浅くなるのにもし重力が仕事をしていないのなら、重力のポテンシャルエネルギーはどうなってしまうのだろう。(これ完全に誤解。密度 ρ の水塊がちょいと変位すると密度 ρ-κΔρ になって 周りの海水は密度 ρ-κΔρ-αΔΘ+βΔSA になるからちゃんと圧力の変動は勘定されている。 中立なのは -αΔΘ+βΔSA =0 のとき。26Jan2022) このあたり反論のほうが説得力あると感じる。てなとこで、今日新たな闘いがあったことを知った。

ちゃんと読めてないのでメモだけ。Tailleux (2016) が熱力学と運動学を切り分けた根源的な態度で丁寧な議論を展開したところ McDougall et al. (2017) がかなりの剣幕で噛みついて、それを Tailleux (2017) がそもそも中立面って Navier-Stokes からは要請されないし「混合」がどうなっているかもわかっていないよね、という半分哲学に足を突っ込んだような返しを見せた。たしかに観測で温度・塩分は分かるが非定常でおそらくサブメソ・ファイン・マイクロな構造がある場の観測からこの辺の議論に決着をつけるのは無理なんでないかい、という気がしてきた。← ToDo しかし土俵が MDPI ってのはどうよ、とか言っているのは古いんでせうね。ちゃんとした人が編集者だし。

(08 Mar 2022) 少し読めた。Tailleux (2016) の問題意識は (α∇Θ-β∇S)⋅δx=0

が Navier-Stokes からも熱力学からも導き出せないことらしい。実際の海水の動きは中立面から外れていて何らかの平均で見たときに中立面に沿う、と。

Because each of the displacements is individually non neutral, it is only the aggregate displacement that is approximately neutral

McDougall et al. (2017) によればもうこれがいけない。件の式は「非定常だから実際の流体の運動には使ってはいけない」。

not appropriate for discussions of the underlying physics and energetics of epineutral mixing. For such discussions, it is crucial to properly account for unsteadiness of the flow during baroclinic instability and the associated release of available potential energy.

とは言いつつも

Nycander (2011) has examined mixing in the ocean along inclined planes and has concluded that an exchange between potential and kinetic energies is required to move seawater parcels along a neutral tangent plane. He also concluded that such energetic arguments do not shed light on the question of which mixing direction is preferred by the energetic ocean mesoscale eddies. Nycander’s results confirm the long-standing practice (since the 1980s) of defining the neutral direction using parcel movement arguments in terms of the lack of vertical buoyant restoring forces, rather than in terms of the changes in gravitational potential energy.

McDougall et al. (2016) で語っていて、エネルギー論は不毛、と。そのあともちょいちょい拾い読みするとどうやら McDougall に分があるような。とくに Appendix の中立面に沿った流体粒子の移動を finite amplitude で考えても意味ないという指摘は盲点だった。

The presence of mixing means that individual fluid parcels lose their identity, and moreover, the nonlinear consequences of mixing, such as thermobaricity and cabbeling (McDougall [3] and Klocker and McDougall [20]) mean that parcels migrate vertically relative to neutral trajectories.

流体粒子がエントロピー保存してうごくなんてのは微小距離だから許されるのであって有限を考える Tailleux (2016) Section 2.3.3 はナンセンスという気がしてきた。かならず混ざる。

そうなると中立面なんてのは近似したものが一枚あれば良いのか。だからいつになってもγn なのか。