『こころの読書教室』(河合隼雄)




21 Oct 2015

『人生の親戚』について短い紹介に終わりましたが、これはほんとうに一つ一つの細かいところですごく考えさせられる本で、たくさん印象に残っているところがあるんですが、なかでも一つ印象に残っているのは、センチメンタルということについて書かれているところです。

ほんとうは長い、苦しい過程を踏んでこそ最後に到達できるところを、「すぐにいけるぞ」というふうに思うのをセンチメンタルというんですが、これは実にポイントをついていますね。そう思うと、よくわかります。センチメンタルな人はすぐに感激して「みんなでがんばりましょう」とか言いますが、皆でがんばったってできないことってよっぽど多いですからね。  センチメンタルな人はすぐ「がんばりましょう」と言うけど、だいたいがんばっていない人が多いでしょう?(笑)。がんばろうと言うことが好きなんで、がんばる気はないんです。ほんとうは、すごい長い、大変な過程を踏まえていかなければならないのです。

日本人で単純にものごとを考える人は、単純にものを言い過ぎるんです。たとえば、最近でも、「一神教の人はすぐ戦争して戦うけど、われわれ多神教の日本人は平和を愛好する国民であって、多神教の方が素晴らしい」などと言う人がありますが、そんなことを単純に言っていいのかと思います。僕は聴衆の顔を見ていて心配になったので、次に、「今のお坊さんの言われることは非常に素晴らしいと思うけれども、そういう素晴らしい日本国民が、第二次世界大戦で何をしたか、忘れずにものを言う必要があるんではないか。仏教のお坊さんたちは第二次世界大戦のときにどういうことをしたか、それを踏まえてものを言うべきではないかと私は思っている。これはなかなか難しい問題だ」というような話をしました。