大気海洋合同セミナー

場所 理学部 1号館 中央棟 3階 336号室
日時 6 月 24 日 (火) 15:30〜17:00
講演者 松井 仁志
講演題目
東アジアの都市域におけるエアロゾルとその光学特性の変動過程に関する研究
概要

東アジアでは近年の急速な経済発展に伴って、エアロゾルとその前駆気体などの汚染物質の排出量が著しく増加している。これらの汚染物質はエアロゾルの生成を通して、発生源やその下流域において直接的および間接的に気候変動や健康に影響を及ぼす可能性があると考えられている。特に大都市域はこのような汚染物質の大きな発生源として注目され、日本や太平洋への汚染物質の輸送(越境汚染)が課題となっている。

本研究では、主に東アジアの大都市の1つである北京に着目した。北京周辺域では各エアロゾル成分やその前駆気体の発生・変動・輸送過程は十分に検証されているとは言えず、都市大気研究の重要な課題の1つとなっている。また、従来の多くの研究では、エアロゾルの質量・粒径分布・化学組成・混合状態などの物理 量と、それらの光学的な特性(光学的厚み・単一散乱アルベドなど)が独立に観測・解析され、モデル計算と比較されてきた。そのため、これらの物理量を結びつけその整合性を検証した研究例は非常に少なく、エアロゾルの気候影響評価の大きな課題の1つとなっている。そこで、本研究では領域3次元モデル(WRF-CMAQ、 WRF/chem)を用いて北京周辺のエアロゾル各成分の濃度および光学的な特性の計算を行い、北京周辺域で行われた集中観測(CAREBEIJING-2006)および人工衛星(MODIS)による観測結果から、モデル計算されたエアロゾルの濃度と光学的な特性を同時に検証することを目的とした。また、それにより北京周辺でのエアロゾ ルの空間分布の特徴を理解し、北京のエアロゾル濃度と光学的な特性の変動に占める各エアロゾル成分の寄与および物理化学過程の重要性を明らかとすることも目的とした。

北京周辺域における約1ヶ月の集中観測期間中に、低気圧の前線通過などに伴って数回のエアロゾル高濃度イベントが観測された。モデル計算によって、このようなエアロゾルの変動要因となる気象場およびエアロゾル各成分の濃度や光学的な特性は水平的・鉛直的に概ね再現された。エアロゾル濃度は北京近郊で濃度が 高くなっているだけでなく、さらに南方数100~1000kmの範囲で高濃度が見られ、このような広範囲で排出された汚染物質が気象条件と関連して北京のエアロゾル濃度の変動を引き起こしていることがわかった。地表面付近のエアロゾルの消散係数と単一散乱アルベドの変動はこの結果と整合的な変動をすることが明らかと なった一方、その絶対値はエアロゾルの混合状態に強く依存していることから、モデル計算において様々な混合状態を取り扱う必要性が示された。また、各エアロゾル成分のエアロゾルの消散係数に占める寄与を鉛直的に見積もった結果、無機エアロゾルおよびそれらによって吸収されたエアロゾル相の水の相対的な寄与 が上空にいくにつれて増加しており、それらの鉛直積算の光学的な特性に占める重要性が示唆された。

発表では、北京で得られたこれらの結果を東京と比較し、東アジアの都市域におけるエアロゾルとその光学的な特性の都市間の類似点と差異点について得られた初期結果も紹介する。