2006/7年冬から2007年夏までの天候予想

(2006年11月20日現在)

 

 

熱帯太平洋の状況から:

 

 2006年11月20日現在、熱帯太平洋ではエルニーニョ現象が成長中である。今回のエルニーニョ現象の特徴は日付変更線付近と東太平洋ペルー沖の両方に海面水温の正の異常のピークがみられることである(図1)。これは海面下の水温(温度躍層)の異常でも同様である。日付変更線付近に正の海面水温異常が見られる<エルニーニョもどき>現象(Pseudo El Niño; http://www.jamstec.go.jp/frsgc/research/d1/iod/)と本来のエルニーニョ現象が両方同時に起きているように見える。

       

図1 海面水温の異常(1015日から1111日までの平均)。NOAA衛星データによる。

 

 熱帯太平洋の日付変更線付近まで水温が高いことから,テレコネクションによって励起される北部北太平洋の低気圧アノマリーも西方にずれることが予想される。つまりアリューシャン低気圧は平年よりも活発でその中心位置が西方にずれるのではないかということである。この低気圧に巻き付く形で偏西風は蛇行し、冬の季節風が強まるので、北海道から北日本の冬は厳しくなる可能性がある。秋の高温が比較的長く続いたために日本海やオホーツク海の海面水温は高めである。北日本では大雪に注意すべきであろう。

 一方、西太平洋熱帯域では海面水温はほぼ平年値か少し低めであり、アリューシャン低気圧が強いために北極振動指数が負側に振れたとしても、西日本から沖縄にかけては季節風の吹き出しは弱く暖冬気味になるであろう。本州の日本海側の降雪も平年並みか少なめになると思われる。言い換えればエルニーニョ現象の時に通常予想されるように本州以南では西高東低の冬型気圧配置が安定せず、暖冬傾向になる可能性が強い。しかし、このような場合には春先に発達しながら東進する低気圧により、海洋災害が起きたり、関東地方などでは時ならぬ降雪のあることが多いので注意が必要である。

 

 

熱帯インド洋の状況から:

 

 インド洋に目を転じよう。既に私たちの研究グループでは10月16日にプレス発表を行なったが

(http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/0610/1016/index.html)

インド洋には現在、典型的なダイポールモード現象が起きている。すなわち、スマトラ、ジャワ沖に低い海面水温の海域があり、中央部から西インド洋熱帯域には正の海面水温異常が見られる(図1)。ダイポールモード現象の影響は、長波放射の異常を見るとより明確になる(図2)。インド洋熱帯域の東部では好天で乾燥気味であり、逆に中央部から東アフリカにかけては積雲活動が活発である。実際、ケニアでは11月の大雨により30万人が家を失っている(以下のサイト参照)。

http://www.reliefweb.int/rw/rwb.nsf/db900SID/LTIO-6VLTNU?OpenDocument&RSS20=18-P

またダムの決壊が恐れられている(以下のサイト参照)。

http://www.reliefweb.int/rw/RWB.NSF/db900SID/SODA-6VQ9BJ?OpenDocument&rc=1&emid=FL-2006-000169-SOM

ソマリアでも8万人以上の人々が危機にさらされいるという(以下のサイト参照)。

http://www.int.iol.co.za/index.php?set_id=1&click_id=87&art_id=qw1163751120162B254

 このようにインド洋ではダイポールモード現象が著しく、また西太平洋の海面水温もエルニーニョ現象で高くならないために、インドネシア、東南アジア、フィリッピン、オーストラリア周辺では下降気流により著しい乾燥傾向にある。オーストラリアやインドネシアの旱魃状態はエルニーニョ現象が終息する2007年の晩春から初夏ごろまで続くであろう。インド洋東部から西太平洋熱帯域における低めの海水温異常に対応する大気の応答として西太平洋には高気圧性循環が生じるであろう。この高気圧性循環がアジア大陸からの寒気の吹き出しを弱めるため、中国東部沿岸地域から、南西諸島、西日本にかけては温暖な冬になるといってよいであろう。 

 

図2 外向き長波放射の異常(背の高い積雲が発生しているところでは、地表や海面からの赤外放射が上空で遮られて宇宙空間にまで届かないため、負の値のところは積雲活動が活発ということになる)。NOAA衛星データによる。

 

 

大気海洋結合大循環モデルを用いた予測実験から:

 

 海洋研究開発機構 地球環境フロンテイア研究センター 気候変動予測研究プログラムでは2005年からJing-Jia Luo(羅 京佳)研究員を中心としてSINTEX-Fモデルを用いて季節予測実験を行ない、サイト

http://www.jamstec.go.jp/frsgc/research/d1/iod/

において毎月更新したものを公開している。ここでは本年111日の海面水温データを同化し、27個のアンサンブル予測による結果を図3−図6に転載し解説したい。

 まず図3に示した12月から2月の3ヶ月平均海面水温を見ると、熱帯域太平洋においてエルニーニョ現象が最盛期になることが明瞭である。北部北太平洋ではアリューシャン低気圧の下で海面水温が降下しているのがわかる。これは図4に明らかなようにエルニーニョ現象に伴うテレコネクション(PNAパターン)により、アリューシャン低気圧が強化されたためである。図4からは更にこの低気圧に巻きつく形で冬の季節風が北海道周辺に及んでいるのがわかる。この影響で北日本は寒冬になる可能性がある。

 インド洋熱帯域ではダイポールモード現象が終息し、ほぼ全域で正の偏差になっているが、これはよく知られているようにエルニーニョ現象に伴って、海面からの熱フラックスが減少したためである。フィリッピンから南シナ海周辺には高気圧性の循環が見られる。この影響が南西諸島から西日本にまで及んでいることから、モデル予測からも西日本は暖冬気味、北海道や北日本は寒冬気味になるといえよう。

 

3 2006111日に予測した12月から20072月までの三ヶ月平均海面水温偏差。CVRP/FRCGC/JAMSTECによる。

 

4 図3に対応する対流圏下層(850ヘクトパスカル)における風の偏差。

CVRPFRCGCJAMSTECによる。

 図56からエルニーニョ現象は2007年初夏頃には終息し、次第にラニーニャ現象に向かうものと予想される。これに伴って、フィリッピン周辺の海面水温が平年よりも高まること、インド洋は全域的に高温気味であることから、小笠原高気圧は強勢で日本を含む極東周辺は比較的暑い夏になる可能性がある。一方、冬の季節風が強めに推移し、オホーツク海を含む北洋の海水温が低下することから、初夏にはオホーツク海高気圧が通常よりも強まることが予想される。この場合、ラニーニャ現象の開始に伴って小笠原高気圧が強化される可能性を考慮すると、2007年には活発な梅雨前線活動を想定するのが自然であろう。

 

5 2006111日に予測した20073月、4月、5月の三ヶ月平均海面水温偏差。CVRPFRCGCJAMSTECによる。

 

 

 

6  2006111日に予測した20076月、7月、8月三ヶ月平均の海面水温の偏差。CVRP/FRCGC/JAMSTECによる。

 

 

 

 おしなべて、2006年の熱帯域の太平洋とインド洋の状況は1997年によく似ており、2007年の夏は1998年の夏に近いものになりそうである。大気海洋大循環モデルを用いた季節予測もこの予想を支持している。