Kaoru Sato's Laboratory

大型大気レーダー国際共同観測による南北半球間結合の研究

中層大気大循環は、成層圏では熱帯から両極に、中間圏では夏極から冬極に向かっています。

最近の研究により、この中間圏の大循環によって離れたところの大気の状態がつながっているのではないかということが指摘されています。

図1 成層圏・中間圏の大気大循環と気候結合

たとえば、熱帯でエルニーニョが起こりますと、北極の地上気圧は高くなります。これは、成層圏の半ば、高度約30㎞をトップとする気候モデルでは、再現できないのですが、モデルトップを中間圏上部まで上げると再現できるようになったという報告があります(Cagnazzo and Manzini, 2009)。この事実は、成層圏や中間圏の循環をシミュレートできるモデルでないと、熱帯と北極の気候のつながりが再現できないということを意味します。そして、実際、エルニーニョが発生すると、成層圏循環が変化していることが突き止められています。

では、はるか90㎞の高さであるが、中間圏循環は南極と北極をつなぐ役割があるのではないか、ということになりますよね。私たちはまさにそのテーマに取り組んでいます。

まず、中間圏循環が弱くなるとどうなるかを考えてみましょう。

上下流に伴う断熱降温、断熱昇温も弱まりますから、冬極の上部中間圏は冷たくなり、夏極の上部中間圏は暖かくなります。

では、中間圏循環が弱くなるのはどのようなときでしょうか?

中間圏循環は対流圏からやってくる重力波による強制で駆動されていますから、上部中間圏に到達する重力波が弱くなれば、中間圏循環も弱くなります。

中間圏上部での重力波強制は、伝わってくる途中の成層圏の風が変わると変化します。

冬半球の成層圏には通常強い西風ジェットが吹いています。そして、対流圏からやってくる惑星規模のロスビー波が成層圏で砕波し、常に西向きの強制が与えられています(図2左)。

ところが、たまに対流圏から強力な惑星規模ロスビー波(プラネタリー波)が上がってくることがあります。そうすると、その砕波により、いつもより非常に強い西向きの波強制をもたらすことになります。強い西風ジェットもひとたまりもなく減速します。この時、成層圏の冬極向き循環は強化され、成層圏が突然昇温します(突然昇温)(図2右)。

図2 左:通常の中層大気大循環と波強制の様子。GWDは重力波強制、PWDは惑星規模ロスビー波の強制。青、赤は大循環によって維持されている気温の様子。右:冬極で突然昇温が起きた時の循環の変化と気温の変化を示す模式図。Koenich and Becker (2010)より。

成層圏に強い西風ジェットがあると、重力波はそのジェットの上にある中間圏弱風層まで到達できるのですが、突然昇温が起こって西風ジェットが消えてしまうと伝播が難しくなります。したがって、中間圏循環を駆動する重力波強制は弱くなります(似たような話が「ロスビー波と重力波の協働」の研究テーマでもでてきます)。

そのシグナルは赤道を通して、夏半球まで伝わっていき、全球的に中間圏の重力波強制は弱まり、中間圏大循環も弱まるのです。

気温に着目して全体を眺めると、冬極の成層圏で突然昇温すると、夏極の中間圏上部の気温も上がるということになります。

冬極の成層圏には極成層圏雲(ピンクやオレンジに光るきれいな雲です)があり、夏極の中間圏上部には極中間圏雲(ブルーグレーに光るきれいな雲です)がありますが、突然昇温が起こると、同時に消えるということになります。

宇宙から地球を見たときに、両極で雲が同時に消えるなんて、とっても素敵な現象だと思いませんか?

同時といっても数日はかかるようです。この時間差は2日とも10日ともいわれています(Karlsson et al., 2009)。では、その時間スケールはどう決まるのでしょうか?そもそも本当に中間圏の重力波は変化しているのでしょうか?南北半球間結合は、理論的に予想され、気温の変化等の観測的証拠もあるのですが、肝心の重力波の変化やそのメカニズムについては、観測も含めまだ十分に確かめられていないのです。

私たちは、大型大気レーダーを使ってこの研究に取り組んでいます。大型大気レーダーは数ある様々な気象観測器の中でも、重力波に伴う運動量フラックスを連続的かつ定量的に推定できる唯一の測器です。

南極昭和基地で運用されているPANSYレーダーは、国立極地研究所、京都大学大学院情報学研究科の共同研究者とともに設計・設置した世界で初めてのハイパワーな南極大型大気レーダーです(図3)。このレーダーは文字通り大型で、直径160mの円形相当の面積に高さ約3mの八木アンテナ1045本が配置されています。2015年3月に全群が稼動し、現在、南極の対流圏・成層圏・中間圏の重力波を連続観測しています。

図3 夏のPANSYレーダー

私たちは、北極成層圏突然昇温時の全球的な重力波の変化を捉えるために、大型大気レーダーを持つ各国に同時観測を呼びかけました。図4はこの国際共同研究の中心となる大型大気レーダーの観測網です。ICSOM (Interhemispheric Coupling Study by Observations and Modelling)というSCOSTEP(太陽地球系物理学・科学委員会)の公式プロジェクトの一つとして認められています。

図4 ICSOM大型大気レーダー観測網

ICSOMでは、2016年1~2月に第1回、2017年1~2月に第2回、2018年1~2月に第3回、2018年12月~2019年1月に第4回、2020年1月に第5回のキャンペーン観測を行いました。第1回では3回の小さな突然昇温現象を、第2回では1回の大きな突然昇温現象をとらえるのに成功しています。

私たちは、この世界同時観測データの解析と、重力波も解像可能な中層大気大循環モデルによる再現実験により、南北半球間結合の詳細な物理の解明に取り組んでいます。

実は、特定の期間の中層大気全体の重力波の場の再現も、世界では初めての挑戦的なテーマです。私たちはこの研究をCREST(研究期間:2016年10月~2021年3月)の一環として進めています


  1. 中層大気大循環
  2. 大気重力波の発生・伝播・スペクトル
  3. 成層圏突然昇温と成層圏界面ジャンプ
  4. 中間圏の力学:重力波とロスビー波の協働
  5. 大型大気レーダー国際共同観測による南北半球間結合の研究
  6. 南極昭和基地大型大気レーダー計画(PANSY)
  7. 高解像中層大気大循環モデルによる研究(KANTO)
  8. アジアモンスーン高気圧と対流圏・成層圏結合