Kaoru Sato's Laboratory

南極からこんにちは

  1. 5月号
  2. 6月号
  3. 7月号
  4. 8月号
  5. 9月号
  6. 10月号
  7. 11月号
  8. 12月号
  9. 1月号
  10. 3月号

子供の科学5月号

はじめまして。佐藤薫です。第44次日本南極地域観測隊の隊員として昭和基地にて越冬中です。専門は気象学。オゾンホールに的を絞った集中観測をするためにやってきました。南極へは初めての出張ですが、毎日が感動の連続です。これから、南極の自然や南極での生活を少しずつ皆さんに紹介していきたいと思います。

南極の夏は12月から2月ぐらい、ちょうど日本が冬の時期です。私達が昭和基地に入ったのは昨年の12月の半ばすぎ、ちょうど夏の時期です。夏といっても気温は1日の最高でわずかにプラスになる程度です。ちょうど日本の冬ぐらいと思ってよいでしょう。ただ、風は強いです。日本で強い風といいますと、たとえば冬の日本海の季節風の吹き出しを思い浮かべますが、これは毎秒10メートル程度の風です。南極ですと毎秒10メートルなんてそよ風です。毎秒20メートルだとちょっと強いかなと思う程度、毎秒30メートルを超えますと、まっすぐ歩けなくなります。私はここに足をおきたいと思って歩いても風下側に足がながされてしまうのです。そして、建物のドアが風の圧力で簡単には開かなくなります。日本では「風の息」といって、強い風が吹いていても弱まる瞬間が比較的すぐ来るのですが、南極ではなかなか来ません。今かな今かなと思っても、期待に反してさらに強い風がびゅーっと吹いてきます。天気が良く、空が澄み渡るときにもそんな日があります。

南極の夏は昼が長く、ある時期、昼ばかりの、つまり太陽が全く沈まない白夜という日が続きます。この夏、昭和基地では2002年11月22日に日が昇ったきり2003年1月21日まで沈みませんでした。昼が長いのと、空気がきれいなために、様々な美しい現象が見られます。ここでは、絹雲、ハロー、サンピラー、地球影、ウォータースカイの写真を紹介します。

子供の科学6月号

南極昭和基地の佐藤薫です。今回は南極でよく会う動物たちの紹介をします。南極大陸が海氷で囲まれていることは皆さんご存じだと思います。海氷の面積は、冬の終わりである9~10月に南極大陸の1.5倍以上に広がりますが、夏の終わりの3月にはほとんどが溶けて南極大陸の縁まで後退します。12月、昭和基地に向かう砕氷船「しらせ」に乗ってオーストラリアから南極に進みますと、南緯55度を過ぎた頃から、穏やかだった海に氷山が現れ、そして、海氷がまばらに浮かぶようになり、その密度が高くなって、しまいには氷だけの海になります。ペンギンやアザラシは、海氷が密になってきたころ見えてきます。でも、彼らは海の広さにくらべると本当にちいさくて、ペンギンはアリのようですし、アザラシはナメクジのようです。昭和基地では、アデリーペンギン、ウェッデルアザラシ、ナンキョクオオトウゾクカモメを間近に見ることができます。

子供の科学7月号

皆さん、お元気ですか?昭和基地の佐藤薫です。今回は、南極の夜空をいろどるオーロラの話です。昭和基地では、今年、白夜が終わり夜らしい夜が訪れるようになった2月の中旬ごろから、晴れていれば毎晩のようにオーロラが見られるようになりました。昼に雲があるのがあたりまえのように、夜オーロラがあたりまえにあるのです。もちろん、ここで写真で紹介するようなすばらしいオーロラはそうひんぱんには現れません。オーロラは夜1時過ぎから4時頃までの間に美しい姿を見せることが多いので「いいのを見よう!」とがんばっていると、つい睡眠不足になってしまいます。

オーロラは太陽からやってくる高速の電子や陽子という小さな粒子が地球の磁場に捕らえられ、加速されながら極域の上層大気に入り込み、大気の酸素や窒素と衝突して発光する現象です。緑、青、赤、ピンクの4つが主な色です。動きは、遅かったり速かったり様々です。高度約100~500kmの光の現象なのに、風の強い中、寒さを我慢して見ていると、オーロラが地上の風に流されて揺らいでいるような、そんな錯覚に陥ります。

太陽からの光の強さや粒子の流れは約11年の周期で強くなったり弱くなったりしています。オーロラは太陽活動が強くなる年の約2年後ぐらいが特に活発になることが知られています。最近の太陽活動のピークは2001年ですから、今年2003年はちょうど2年後にあたり、しかも、昭和基地はよく晴れたので、オーロラワッチとしては最高の年となりました。

子供の科学8月号

皆さん、お元気ですか?南極昭和基地の佐藤薫です。ここ昭和基地では、5月30日12時44分から7月14日12時01分までの約45日間にわたる、太陽の出ない長い極夜(きょくや)が始まりました。太陽が出ないといっても、水平線のすぐ下までは上がるので、昼間の数時間程度はほんのり明るくなります。また、極夜中でも蜃気楼によって見えないはずの太陽が見えたりすることもあります。しかし、基本的に夜ばかりの生活です。

昭和基地での食糧や燃料は、年に一回、12月に観測隊員の乗る砕氷船「しらせ」で運ばれてくるだけですので、極夜を迎えたこの時期、生野菜や生卵はなくなります。また気温がかなり下がりますので、野外活動に必須の雪上車に使う燃料には低温でも凍らない特殊な油を使います。特に南極軽油とよばれる油は-50度の低温でも使用可能です。

今回は、蜃気楼と、昭和基地での生活の一部を紹介したいと思います。

子供の科学9月号

こんにちは、佐藤薫です。ここ南極昭和基地では、3月の秋分をすぎた頃からどんどん夜が長くなり、晴れた夜には星が輝くようになりました。昭和基地は南半球ですから、北半球に位置する日本とは違う星座も見られます。南十字星や、日本でみるのとは上下が逆のオリオン座、美しいカーブを描くさそり座、そしてなんといっても空を横切る天の川が印象的です。空が暗いので、大マゼラン雲や小マゼラン雲などの星雲も肉眼ではっきり見ることができます。私はノルウェーの北にある北極スピッツベルゲン島での夜空も見たことがありますが、印象がかなり異なるので驚きました。その違いはオーロラにあります。オーロラは北極や南極を取り囲むドーナツ状のオーロラオーバルと呼ばれる領域によく現れることがわかっています。昭和基地はオーロラオーバルのほぼ真下(南緯約70度)にありますので、星より先にオーロラの美しさに見とれてしまうのです。これに対し、スピッツベルゲン島は北緯約80度にありオーロラオーバルの内側ですから、オーロラは地平線の彼方にみえることが多く、全天星だらけという印象になりやすいのだと思います。北極にしても南極にしても、空が澄んで数限りない星が見えますので、これをつないで星座に見立てた私たちの祖先の気持ちがわかるような気がしてきます。今回は、星に詳しい堀内順治さんに写真だけでなく解説もお願いしました。

子供の科学10月号

こんにちは。南極昭和基地の佐藤薫です。これまで主に雲や蜃気楼、オーロラ、星などの空の現象やあざらしやペンギンなどの動物を紹介してきました。このように美しい現象やかわいらしい動物を観察している自分が立っている地面にふと目を向けてみると、これもまた、南極の自然を物語る面白い特徴が見えてきます。

南極の地面は、白い大陸と呼ばれるように雪や氷におおわれています。でも、2%ほど地層や岩石がむきだしになっている場所があります。このわずか2%ほどのなかに、地球ができてまもない約40億年前の岩石や、アンタークティサイト(南極石)という南極で初めて見つかった鉱物があります。また、大陸移動があったことを示す陸上植物の化石を含む古生代の地層、恐竜の化石を含む中生代の地層、ペンギンの仲間の化石を含むより新しい時代の地層というように、南極の地層には地球の長い歴史が見え隠れしています。南極大陸の雪や氷は長い時間をかけて周囲の海に向かって流れていきますが、宇宙から降ってきた隕石がこの流れに乗って、ある決まった場所に集まるため、隕石が多く発見される大陸としても知られています。

今回は、風が作る地面の模様から、鉱物、岩石、地層まで、南極の地面の話をしたいと思います。

子供の科学11月号

こんにちは、昭和基地の佐藤薫です。今回は「オゾンホール」の話をします。地球には15~20kmの高さに「オゾン」という物質が多く含まれる空気層があり、「オゾン層」と呼ばれています。オゾン層は目には見えませんが、太陽からの有害な紫外線を吸収して、地球上の生き物を守っています。ところが、20~30年前から、春の時期,南極上空のオゾン量が激減し、ちょうどオゾン層に穴があいたような状態になる「オゾンホール」という現象が毎年起こるようになりました。

これは、昔エアコンや冷蔵庫などに沢山使われていて、いまは使用が禁止されている物質「フロン」がもととなってオゾン層を壊す光化学反応が起こるからと考えられています。南極の冬から春には、オゾン層の気温は-80度を越える低温となり、特殊な雲ができます。この雲の表面で、オゾン破壊反応はけた違いに加速され、オゾンホールができるのです。春の終わりには気温があがり、雲が消えて、周りからオゾンが流れ込んで、オゾンホールはふさがります。

北極は南極ほど上空が冷えないので特殊な雲が少ないですが、最近では似たようなオゾン破壊が起こっていることが知られています。

私達は、地球のオゾン層の未来を予測するため、昭和基地を含む南極の9つの基地でネットワークをつくり、オゾン層の状態を徹底的に調べる観測を行なっています。

子供の科学12月号

こんにちは。昭和基地の佐藤薫です。今回は南極の風と雪の話をします。昭和基地では、ほとんどいつも決まった方向(北東)からの風が吹いています。これは、南極大陸上で冷やされてできた重い空気が地面(雪面)をはうように滑り降りてくる、カタバ風とよばれる風が吹くからです。昭和基地は南極大陸から西に5kmほど離れた東オングル島というところにありますので、大陸からの吹き下ろしは東風です。それがやや北よりの北東の風になるのは、南極のカタバ風が大規模で地球の回転を感じるからです。すこし難しい話になりました。

カタバ風が吹くとき南極大陸の雪面はきれいな縞模様になります。この模様は動いているので、目にはきれいに見えても写真に取るのは案外難しいものです。それから、カタバ風の大陸を滑り降りるスピードがとても速いときには、雪が数百mも巻き上げられるハイドローリックジャンプという現象も起こります。これもとてもダイナミックな現象です。

それから、南極で雪と風と言ったら、ブリザードとよばれる強烈な吹雪が有名です。激しいブリザードの時には、外は真っ白で1mも離れていない前を歩く人の姿もみえなくなります。ブリザードが終わって、風がおさまり、ドアをあけてみると、建物の前に巨大な雪の絶壁ができていて容易には出られなくなっていたりします。ブリザードの時、視界をさえぎる雪は、空から降ってくるとはかぎりません。積もっていた雪が強風によって吹き飛ばされているときもあります。前は真っ白なのに、上をみると青空が広がっていたり、夜の場合はオーロラがみえていたりします。

子供の科学1月号

こんにちは。昭和基地の佐藤薫です。10~11月中旬は野外活動のシーズンです。日は長くなりますが、まだ気温が低いので海氷上でも安心して雪上車等で移動できるからです。海氷をわたって南極大陸の内陸部に設置してある観測機のメンテナンスに行ったり、沿岸の露岩域にペンギンの調査に行ったりします。また、この時期、アザラシが子供を産み、ペンギンは卵を産みます。南極トウゾクカモメや雪鳥も姿を現し、冬の間静まり返っていた昭和基地周辺は一気ににぎやかになります。今回は、昭和基地近傍の南極大陸の露岩域の観光名所をすこし紹介します。

子供の科学3月号

こんにちは、昭和基地の佐藤薫です。12月半ばに砕氷船「しらせ」が約10ヶ月ぶりに昭和基地にやって来ました。気象棟での観測中に、無線で私たち日本南極地域観測隊第44次越冬隊36人とは明らかに違う声が聞こえてきたときは新鮮な感動を覚えました。そして、「しらせ」からヘリコプターが飛び、第一便が届けられました。それは、懐かしい家族からの手紙や写真でしたし、新しい雑誌やお菓子でした。あまり抑えた生活を送ってきたとは思わないのですが、1年ぶりに私たち以外の人や新しい物を見るのは感慨深いものでした。私たちは1月の末に任務を終え、2月1日には第45次隊と越冬交代をして、「しらせ」に乗って日本に帰ります。44次の最後は、春に生まれた動物のかわいい赤ちゃん達を中心に紹介することにしましょう。