私たちの研究室では、大気物質科学、特にエアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)と雲に着目した研究を推進しています。エアロゾルと雲は気候変動において重要であるだけでなく、雲・降水という気象学の基本要素に新しい見方を導入するとともに、大気圏と人間圏・生物圏・海洋との相互作用の駆動要素でもあります。従来の気象学と気候学に新たに物質科学を導入することにより、新しい大気科学の構築を目指しています。
 研究手法としては、観測と数値モデル計算の両方の研究を実施しています。


 大気中のエアロゾルは、さまざまな無機・有機成分からなり、黄砂のように大気中にエアロゾルとして直接放出されるものと、大気中での化学反応により気体からエアロゾル化するものがあります。これらのエアロゾルの物理化学過程、輸送過程、除去過程によりその濃度が決まり、またその物理化学特性により異なった放射効果や雲凝結核・氷晶核特性をもちます。

 一方、エアロゾルを核として生成する雲粒は、エアロゾルの数濃度などに応じてミクロやマクロな応答をします。この結果、雲の放射効果や降水過程に影響をおよぼすと考えられています。これらのエアロゾルと雲・降水過程を統合的に理解することを目指しています。

 特に大気環境への人為的な影響の評価を、主要な研究テーマとしています。


 エアロゾルとその雲への影響効果は、有効放射強制力推定において最も不確定性が高く(図中のエラーバーが大きい)、地球の気候変動の理解・予測のひとつの鍵となっています。またエアロゾルは光吸収性の高いものと低いものがあり、このうち特に光吸収性の高いブラック・カーボンは、二酸化炭素、メタンについで、3番目に強い放射強制力を持つと考えられています。

 エアロゾルは二酸化炭素やメタンなどと比較すると大気中での寿命が短く(1週間から数ヶ月程度)、地域的な変動が大きいのが特徴です。すなわち人為的な大気汚染の影響が強いアジアでは、図で示されたグローバル平均よりも大きなエアロゾルや雲の有効放射強制力が働いていると考えられます。私たちの研究室では、このようなエアロゾルやその雲影響効果の不確定性を減らすために研究を行っています。





 エアロゾル(図中の赤丸)は雲凝結核として働くため、産業革命以前(自然状態)よりも現在では、人為的なエアロゾルの増加により、雲粒数濃度が増加していると考えられます。これは雲粒全体の断面積を増加させ、結果的に雲のアルベド(反射率)を増加させ、地球を冷やす方向に放射強制力を働かせます(負の放射強制力)。雲粒形成時の粒径の縮小は降水や雲粒蒸発過程にも影響し、雲量、雲層厚、雲粒の相(水・氷)への影響を通じて、正あるいは負の有効放射強制力をもつと考えられます。



 IPCC第4次報告書までは、瞬時に働く放射強制力が評価されていたのに対し、第5次報告書ではグローバルな気温の上昇と比較して時定数が十分に短い雲の応答(調節効果,adjustment)を含めた「有効」放射強制力が評価されています。これは妥当な評価方法と考えられますが、エアロゾルにより変化する鉛直積算雲水量や雲量の変化を含めた雲の調節効果は、瞬時に働く放射強制力よりもメカニズムレベルでの理解がはるかに遅れており、その評価にはさらに大きな不確定性があります。この雲の調節効果は、これまでの研究から雲システムがおかれた環境・レジームにより異なると考えられます。私たちの研究室では、東太平洋と比較して研究例が少ない西太平洋域の下層雲をターゲットとした研究を行っています。




 大気中のエアロゾルには、それ自身が太陽放射を散乱・吸収することで気候に影響を及ぼす効果(直接効果)もあります。エアロゾルの中で例外的に太陽放射を強く吸収するブラックカーボン(BC)は、大気を加熱し、大気の鉛直安定度や循環に影響する重要な成分です。ブラックカーボンは他のエアロゾル成分に被覆されることにより太陽放射の吸収特性が増加(放射強制力の増幅)するとともに、逆に吸湿特性をもつことにより大気中での寿命の減少(放射強制力の低下)という、2つの逆方向に働く特性を持つようになります。これらの物理化学特性の変化を、数値モデル計算により研究しています。


 対流圏のオゾンも、大きな温室効果をもつとともに、陸上の植生(従って食糧生産)への悪影響(大気質、air qualityへの影響)ももちます。 エアロゾルとオゾンはその発生源、生成過程、輸送過程に共通点が多く、また化学反応過程や放射過程において互いに密接に関係しています。実際にエアロゾルの濃度増大がみられる場所では、一般的に同時にオゾン濃度の増大がみられています。このことから領域的な気候変動と大気汚染(大気質の悪化)は共通した原因物質であるエアロゾルとオゾンにより多大な影響を受けていると、考えられています。したがって両物質を統合的に研究し、その生成・変動プロセスの解明が必要となっています。  このような認識から、私たちの研究室では、エアロゾルとオゾンの観測と数値モデル計算による研究を実施し、人為的な影響の大きさの評価を目指しています。

「1、数値モデルによるエアロゾル・雲相互作用研究」→

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