粗い深海底直上に形成される強乱流混合域

複雑な起伏を持つ粗い海底地形の直上には、強い鉛直乱流混合が存在する場合があることが知られています。 この強混合は、深層熱塩大循環を維持するのに必要な鉛直拡散係数の不足分を補い得る有力候補の一つと考えられてきました。

私たちは、このような粗い海底地形直上に形成される強い鉛直乱流混合の物理的な特徴を、海底地形を様々に変化させた数値実験を行うことによって調べました(Iwamae and Hibiya, 2009; 2012)。

図1は、細かい凹凸を含む海底地形を用いた場合(右)と、滑らかな海底地形を用いた場合(左)それぞれにおける乱流エネルギー散逸率の空間分布です。 細かい凹凸を含む海底地形を用いた場合の方が、滑らかな海底地形を用いた場合に比べて強いエネルギー散逸の生じていることが一見してわかります。 ところが、より詳しく調べてみると、海底直上での最大エネルギー散逸率(ε0)は確かに大きくなっているものの(図2上)、そのような強いエネルギー散逸が海底から上に向かって広がる距離(減衰高度ζ)は逆に小さくなってしまっていることがわかります(図2下)。 すなわち、粗い深海底直上における乱流混合の「強さ」とその強い乱流混合が「上向きに広がる距離」との間にはトレードオフの関係があるのです。

この結果は、海底強混合は深層熱塩大循環を維持するのに必要な乱流混合の供給源としては不十分である可能性が高いことを物語っています。

図1: 数値シミュレーションで得られた乱流エネルギー散逸率の空間分布。(左)平滑化して細かい凹凸を取り除いた海底地形を与えた場合の結果。(右)マルチビームソナーで測深された細かい凹凸を含む海底地形を与えた場合の結果。

図2: (上)海底直上での最大エネルギー散逸率(ε0)の水平分布。(下)エネルギー散逸率の鉛直方向への減衰高度(ζ)の水平分布。