2010 年度 第 19 回 気象学セミナー

場所 理学部 1 号館 8 階 851 号室
日時 11 月 18 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 大野 知紀
講演題目 新しい水平運動量の鉛直フラックスの推定法
概要
 重力波は運動量を鉛直に伝播し中層大気において砕波・減衰することで、大循環の駆動また放射平衡からかけ離れた温度構造の維持に重要な役割を持つ。したがって運動量フラックスの推定は重力波の寄与を定量的に評価する上で重要である。しかし、重力波の起源は山岳や対流、ジェットフロントシステム等多様であるため、常に伝播の方向の異なる複数の重力波が重なりあっている可能性がある。このような場合、すべての物理量の場が得られていたとしても運動量フラックスの総量を見積もることは難しい。
 そこで、本研究では新しい重力波の運動量フラックの推定方法を考案した。これは、モデル出力のように全ての物理量が得られる場合に、重力波の波数及び振動数を仮定しないで推定する理論式である。ただし、この理論式は単色波を仮定しているため、波の場を単色波にまで分解する必要がある。重力波解像可能な大気大循環モデルの出力データを用いて運動量フラックスの推定を試みた。モデル は水平解像度 T213、地表から高度 85 kmまで鉛直 256 層、中層大気においては 300 m 間隔の鉛直グリッドを持つ (Watanabe et al., JGR, 2008)。重力波パラメタリゼーションを使っていないので、モデル内の重力波は全て対流や山岳、不安定、ジェットフロントシステムなどから自発的に生じたものである。このモデルでは中層大気において現実的な大規模循環が再現されることが Watanabe et al. により示されている。
 26 以上の全水平波数をもつ擾乱成分を重力波の場とし、これを単色波の仮定を満たす程度の異なる次の 3 つの場合において、導出した理論式を用いた運動量フラックスの推定を行った。各グリッドにおいて、
  • 1) 擾乱成分全体を単色の重力波とみなす、
  • 2) 鉛直方向にスペクトル分解する、
  • 3) 鉛直方向及び時間方向にスペクトル分解する。
2)と 3)の結果はほぼ同じであったことから鉛直方向にスペクトル分解することで重力波を単色に分解することができることがわかった。また、VORCORE などの先行研究で行われているように、スナップショットにおける擾乱の成分による運動量フラックスの絶対値の鉛直及び時間平均を計算したところ 2)とほぼ同様の結果が得られることも分かった。次に、全運動量フラックスを 4 方向に分け評価した。結果を表に示す。インドモンスーン領域、南半球のジェットフロントシステム及びアンデス付近において、東向き及び西向きの成分がそれぞれ 22 % と 43 %、37 % と 16 %、51 % と 12 % というこの結果は、正味の運動量フラックス分布を示した Sato et al. (GRL, 2009) の結果と整合的である。