2009 年度 第16回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 12 月 17 日 (木) 16:30〜18:00
講演者1 飯田 絵里菜
講演題目 航空機観測による東シナ海・黄海における層雲・層積雲の雲微物理特 性の研究
概要

人為的なエアロゾルの増加は、直接放射効果と共に、雲微物理量の変化による間 接効果 (雲アルベドの増加や、降水抑制にともなう雲寿命の増加) をもたらすと 考えられている。本研究では、2009年3-4月に実施されたA-FORCE航空機観測での 東シナ海・黄海における層雲・層積雲の直接観測に基づき、東アジアにおける雲 微物理特性の特徴を明らかとすることを目的とした。

A−FORCE航空機観測は、鹿児島を拠点として実施された。A-FORCE観測では、雲 微物理特性および雲とエアロゾルの関係を調べる観測 (マヌーバ) を、7フライ ト (9ケース) で実施した。観測された雲は大きく分けると、すじ状の雲、停滞 前線北側の雲、低気圧前面の雲の3つに分類される。

本研究では第一に、雲微物理特性を測定したCAPS測定装置の粒径検出および検出 領域など、測定の妥当性および精度向上に関わるキャリブレーションを実施し た。またA-FORCEのデータから、原理が異なる2つの測定器 (粒径分布の積分値 とホットワイヤー法) で得られた雲水量が誤差の範囲で一致しており、測定器が 正常に動作していたことを確認した。

本研究ではまた、マヌーバで得られたデータの解析を実施した。この結果、A- FORCEで観測された東シナ海・黄海の層雲・層積雲は、雲粒数密度が300-900個cm -3程度であり、雲粒の有効直径は8μm程度 (雲水量が0.2 g m-3での値) であっ た。本研究で観測された雲は、過去の世界各地で実施された航空機観測で報告さ れている結果と比較して、雲粒数濃度が海洋性雲の3-6倍、大陸性雲の2倍程度高 いことが分かった。また同じ雲水量で比較した雲粒有効直径も、平均して半分程 度の大きさであった。この結果は、東アジアの層雲・層積雲の雲微物理量は、世界的に見ても特異であることを示すものである。 また雲粒数濃度と雲底下の蓄積モードのエアロゾル数濃度との間には、正の相関 があることが分かった。一方、雲粒数濃度の変化は上昇流の強さの違いによるも のではないことが示唆され、雲粒数がエアロゾル数により増減していたことが示 唆された。この蓄積モードエアロゾルの増大は一酸化炭素 (CO) の濃度と相関が あり、またトラジェクトリー解析から大陸から短時間で輸送された気塊中で観測 されていることから、人為的な汚染大気の影響によるものと考えられる。 以上の結果から、A-FORCEで観測された東アジアの雲の微物理特性が、人為起源 のエアロゾルの影響を強く受けていることが強く示唆された。

講演者2 土屋 主税
講演題目 NICAM実験データを用いた熱帯対流の非断熱加熱の重力波励起メカニズムの解析
概要

熱帯中層大気における準二年周期振動の駆動にとって、赤道捕捉波よりも重力波 の作用が重要であることは、90 年代の精力的な研究により明らかになった (Sato and Dunkerton, 1997; Haynes, 1998; Baldwin et al. 2001)。Sato et al. (2009) は、高解像度 GCM を用いて、北半球夏期に中層大気に伝播する重力 波の発生源を調べた。その結果、インドモンスーン地域の対流が、山岳、ジェッ トと並んで重要であることがわかった。しかし、対流に伴う重力波の励起メカニ ズム、エネルギー・運動量フラックスの全球分布や季節進行の解明はまだ充分で はない。

そこで本研究では、非断熱加熱による重力波励起メカニズムの解明を目的とし、 全球非静力雲システム解像モデル NICAM (Satoh et al. 2008; Tomita and Satoh, 2004) による 2004 年北半球夏事例 (Oouchi et al. 2009) のシミュ レーションデータを解析した。特に、雲微物理過程 (Grabowski, 1998) により 陽に表現された非断熱加熱の構造に着目した。

インドモンスーン地域の対流圏中上層東風が再現されていて、Sato et al. と同 様に、重力波が上方伝播する条件を満たしていた。しかし、エネルギーフラック スを調べてみると、下向き伝播が卓越する領域もみられた。ここでは、成層が不 安定となっていて、重力波の砕波が起きていることがわかった。実際、大きな上 向き熱フラックスが見られた。したがって、下向きエネルギーフラックスは、重 力波の砕波に伴い二次的に発生した重力波である可能性が高い。更に、モンスー ンの降雨システムに伴う重力波の運動量フラックスについて、非断熱加熱の構造 との関連を調べた結果も報告する。