2009 年度 第14回 気象学セミナー(大気海洋合同セミナー)

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 11 月 19 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 中村 尚
講演題目 中緯度海洋が大気循環系の形成と変動に与え得る影響について
概要

 標記の話題について,講演者が共同研究者らとともに行なって きた研究の成果を中心に概説する.

 講演の前半では,従来の大気大循環論では注意が払われて 来なかった下方境界条件に着目し,中緯度の海面水温分布が, 水蒸気供給や地表傾圧帯の維持を介して,大気の移動性擾乱の活動や 極前線ジェット気流の形成に,どのように影響し得るかを論ずる. 南北水温勾配の顕著な海洋前線帯における大気海洋間の熱交換が, 大気擾乱による極向き熱輸送に抗して効率的にストームトラック域の 地表傾圧性を回復させるという「海洋性傾圧調節」過程や, 海洋前線帯の東西非一様性が大気の惑星規模波動の形成に 与え得る影響などにも言及する.

 講演の後半では,中緯度海洋が大気海洋系の長期変動に与え得る 影響について論ずる.従来,中緯度の海洋は,熱帯の大気海洋結合 変動の遠隔影響や大気の内部力学による変動からの強制に対して 受動的に応答するだけの存在と認識されてきた.しかし,ここ 10年ほどの間に,移流効果の強い西岸境界流や付随する海洋前線帯 では,海洋循環変動に伴って生ずる持続的な海面水温偏差が大気への 熱や水蒸気の放出を変化させ得ることが分ってきた.講演では,特に 北太平洋の海面水温の長期変動に焦点を当て,それに関わる海洋表層下 の変動や海面での熱交換について,高解像度の海洋循環モデルの 解析結果も踏まえて概説する.また,付随する大気循環変動に ついても言及する.