2009 年度 第10回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 3階 336号室
日時 10 月 8 日 (木) 16:30〜18:00
講演者1 小川 史明
講演題目 中緯度SST勾配が移動性擾乱活動に与える影響
概要

中緯度海洋の西岸海盆領域には、暖流と寒流が接して海面水温(SST)の南北勾配が顕著な領域が見られ、海洋前線帯と呼ばれる。 中緯度海洋前線帯に伴う大気下層の強い傾圧性は、移動性総観規模擾乱の発達に 寄与することが知られている。

最近、大気大循環モデル(AGCM)に東西一様なSST分布を与えて駆動する「水惑星」実験の結果から、現実的な緯度における中緯度海洋前線帯の存在は、海洋前 線帯上に擾乱の通り道(ストームトラック)を固定し、その活動を活発化させ、 それを通じて中緯度の極前線ジェットを駆動しようとする働きがあることが示さ れた。

本研究の目的は、海洋前線帯の緯度に対して、擾乱活動や平均循環場とその変動がどのように依存するかを明らかにすることである。 「水惑星」の実験設定で地球シミュレータのAGCM(AFES)を用い、感度実験として前線帯を勾配を保ったまま南北に10°ずらし、大気の応答を比較した。 その結果、海洋前線帯の緯度の変化に対し、下層のストームトラック軸はほぼ追従するが、上層ではその敏感性は顕著でなかった。 また、移動性擾乱の活動度の変化は下層ではあまり系統的でなく、上層では前線帯が赤道側にあるほど活発であることが分かった。

講演者2 斎藤 森太郎
講演題目 春季東アジアにおける硫酸エアロゾルの動態と収支
概要

硫酸エアロゾル(SO4)は大気中での主要なエアロゾル成分であり、その高い吸 湿特性によりエアロゾルの直接および間接放射強制力に大きな影響を与えている と考えられている。しかしながら、これまでのグローバルモデルでは、硫酸エア ロゾルの生成過程を簡易的にしか表現していない。一方、比較的詳細なエアロゾ ルの各種プロセスを入れた領域モデルでも、硫酸エアロゾルの液相と気相反応に よる生成プロセスの時空間変動を調べた例はない。

本研究の目的は、最先端の詳細な領域化学輸送モデルWRF-CMAQを用いて、東アジ アの硫酸エアロゾルの動態と収支を、気相・液相生成と湿性除去過程(wet deposition)に着目して明らかにすることである。このために本研究では、まず 数値モデルで計算された硫酸エアロゾルや前駆気体のSO2を、2001年3月に西太平 洋で実施されたNASA TRACE-P航空機観測との比較により検証した。次に、エアロ ゾルの生成プロセスなどを定量化するためのタグ付の計算手法を導入した。そし てこのタグ付計算に基づいて、ひとつの寒冷前線の通過イベントに伴う硫酸エア ロゾルの増大の時空間分布を調べた。さらにこれらの移動性擾乱が複数通過する 春季東アジアにおいて、平均的な気相・液相生成量、沈着量の時空間分布を調べ た。これらの解析により、気相反応により生成されたSO4は、華中を中心に分布 しているのに対し、華南から日本南方・東方海上において液相反応により生成し たSO4が高濃度で分布していることが分った。この分布は、中国北東部を中心と したSO2の発生源分布とはだいぶ異なり、主として雲水の分布により決まってい ることが示唆された。