2009 年度 第9回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 3階 336号室
日時 10 月 1 日 (木) 16:30〜18:00
講演者1 岡本 功太
講演題目 化学気候モデルの2世紀予測実験に基づく成 層圏循環変化の解析
概要

 本研究はCCSR/NIES CCM REF2 シナリオによるシミュレーションデータを用い て、21世紀のオゾン回復期における成層圏循環の変化及びその力学メカニズムの 解明を目的としている。この実験では温室効果気体の増加はIPCC A1B シナリオ を、ハロゲン気体の減少についてはWMO Ab シナリオを与えている。本発表では 解析の初期結果を示し、その解釈を議論する。

講演者2 飯田 絵里菜
講演題目 航空機観測による東シナ海・黄海における 層雲・層積雲の雲微物理特性の研究
概要

 近年の東アジア諸国からの人為期限物質の排出量増加に伴う、大気循環の悪化 や領域的気候変動が懸念されている。人為的なエアロゾルの増加は、直接放射効 果と共に、雲微物理量の変化による間接効果 (雲アルベドの増加や、降水抑制に ともなう雲寿命の増加) をもたらすと考えられている。しかし、このような観点 からの航空機を使った雲観測は、東アジアではこれまで実施されておらず、実証 的な研究がなされてこなかった。

本研究では A-FORCE 航空機観測により実施された東シナ海・黄海における層 雲・層積雲の直接観測に基づき、それらの領域における雲微物理特性の特徴を 明らかにすることを目的とした。航空機観測は、2009年3−4月に鹿児島を拠点 として実施した。この観測において、雲微物理特性および雲とエアロゾルの関 係を調べる観測 (マヌーバ) を、7フライト (9ケース) で実施した。これらの観測 で対象とした雲は、停滞前線や、大陸からの乾いた寒気の噴出しに伴う、層雲・ 層積雲である。今回の発表では、この観測の初期解析結果について報告する。

これまでの解析から、今回観測された東シナ海・黄海の層雲・層積雲は、雲粒 数密度が400−1900個cm-3程度であり、また雲粒の有効直径は6μm 程度 (雲水量が0.2gm-3での値) であった。これを過去の観測例、 すなわちカリフォルニア沖など世界各地の観測と比較してみると、その雲粒数 密度は4−10倍程度大きいことが分った。また同じ雲水量で比較した雲粒有効 直径も、平均して半分程度の大きさであった。この結果は、東アジアの層雲・ 層積雲の雲微物理量は、世界的に見ても特異であることを示すものである。ま た、今回観測された雲粒数濃度が過去の航空機観測の結果と比較して高いこと は、同時に観測された高濃度の蓄積モードのエアロゾル数や、ABC-EAREX2005 (2005春季、韓国済州島 Gosan 観測所) で観測された高濃度の雲凝結核 (CCN) 数と整合的である。すなわち、高濃度の人為起源エアロゾルが観測領域の層雲・ 層積雲の雲微物理量を平均的に変化させていることを強く示すものである。