2009 年度 大気海洋合同セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 3階 336号室
日時 09 月 17 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 安成 哲三
講演題目 温室効果ガス増加以前(18−19世紀)のアジア大陸における農耕地拡大(森林破壊)がアジアモンスーンに与えた影響について −大気大循環モデルによる数値実験−
概要

 1700年から現在に至る全球陸地における植生・土地利用変化数値データを用い て、アジア地域での森林面積の大幅な減少がアジアモンスーンの変化に与える影 響を、大気大循環モデルを用いて調べた。その結果、18世紀から19世紀にかけて のインド亜大陸と中国南部での大規模な森林破壊(および農耕地の拡大)により、 夏季アジアモンスーンによる降水量が、これらの地域で大幅に減少していたこと を強く示唆する結果が得られた。これは、森林から農耕地への変化に伴う地表面 の反射率の増加と摩擦の減少によって、地表面の蒸発散量と、海洋域からの水蒸 気輸送による水蒸気収束量がともに減少し、大気への水蒸気量の供給が減少し、 対流活動が弱まったことで、降水量の減少を引き起こしたが原因であること も明らかになった。この結果は、同時期のインドモンスーン降水量変化を間接的 に復元したヒマラヤの氷河コア解析による結果とも整合的であった。今回の結果 は、産業革命以前の温室効果ガス増加による効果が現れる以前に、アジアでの農 耕活動の拡大により、人間活動によるアジアの気候変化がすでに起こっていたこ とを強く示唆している。この研究は、2009年6月16日付の米国科学アカデミー紀 要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA (PNAS)」 に掲載された。