2009 年度 第 3 回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 05 月 14 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 小坂 優
講演題目 シルクロード変動パターンの力学とCMIP3気 候モデルにおける再現性
概要

夏季アジアジェットに沿って波状に連なる循環偏差パターンはシルクロードパター ンと呼ばれ、東アジアの夏季気候に影響する主要なテレコネクションパターンの 一つである。JRA25再解析データに基づく解析から、シルクロードパターンはア ジアジェットの強さによって決まる定常ロスビー波数に近い水平波数を持ち、自 由ロスビー波的な特徴を示すことを確かめた。一方で、シルクロードパターンは 傾圧的なアジアジェットから有効位置エネルギーを高い確立で受け取り、散逸過 程に抗して自身を維持する力学モード的な本質を持つことを示した。さらに、順 圧エネルギー変換効率はアジアジェットの微妙な東西非一様性に敏感で、これが 観測に見られるような特定の東西位相の卓越に寄与している。実際に、北半球夏 季の気候場のまわりで線形化した全球傾圧モデルにおける第2特異モードとして、 観測されるシルクロードパターンに似た構造とエネルギー変換を持つ擾乱が同定 された。以上の結果から、シルクロードパターンの緯度や波数だけでなく、卓越 する位相も平均循環の構造によって決定されることがわかった。

このような性質は、第3次結合モデル相互比較プロジェクトに参加した気候モデ ルによる現在気候再現実験における、シルクロードパターンの再現性の評価とそ の解釈に役立つ。夏季アジアジェットの微妙な東西構造まで現実的に再現できる モデルの多くにおいて、シルクロードパターンは現実大気の場合と同様に対流圏 上層における南北風変動の卓越パターンとして同定され、再解析データに基づく 上記の解析から得られた力学特性を有することが確かめられた。これらの結果に 基づくき、気候モデルにおけるシルクロードパターンの再現性を評価するための メトリックを提示した。