2008 年度 第 10 回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 12 月 11 日 (木) 10:30〜12:00
講演者 小山 健宏
講演題目
非静力学モデルを用いた南極カタバ風の力学的研究
概要

南極大陸の地表付近では、放射冷却により重くなった空気が斜面を滑り落ちるよ うに吹くカタバ風が卓越している。Parish and Bromwich (1987)は、Ball(1956) の理論と観測を基に、大陸規模のカタバ風の流線を描き、カタバ風が谷で強化さ れる傾向があることを示した。現在、南極気象の実時間予測が行われているが、 複雑地形での風速再現性はまだ低い。

本研究では、非静力学モデルを用いてカタバ風の力学的理解を深めることを目的 とする。まず、再現性の確認のため、現実地形を用いた計算を行い、みずほ基地 でのラジオゾンデ観測データとの比較を行った。その結果、カタバ風の水平、鉛 直構造ともによく再現されていた。次に、カタバ風への地形の影響を調べるため、 溝あり理想地形を用いての計算を行った。その結果、溝の風下側で風速が大きく なった。これはアデリーランドで観測される強い風速(約20m/s)と調和的である。 溝の両岸に風速差ができる理由としては、バリア風(流れが谷筋を越える際にで きる水平温度勾配とバランスした風、Parish and Cassano, 2003)とカタバ風の 駆動力である負の浮力の重ね合わせの結果、溝の風下側で収束領域が形成された ことが考えられる。

次に、より詳細なカタバ風の構造を調べるため、水平グリッドをより細かくした 計算(軸対称地形、27kmメッシュ)を行った。その結果、南極の斜面から沿岸に かけて、これまで存在が報告されていない西向き伝播、周期約4日の擾乱がみら れた。この擾乱は地表付近と斜面上空約3000mに振幅のピークを持ち、それぞれ 大きな熱フラックス、運動量フラックスを伴っていた。また、背景場の解析によ り、この擾乱は、斜面上の南北温度勾配とバランスするようにできた西風ジェッ トを弱めるように働いていることがわかった。最後に、この擾乱の存在を、昭和 基地でのラジオゾンデ観測データとNCEP再解析データを用いて調べた。その結果、 対流圏下層、中層に周期約4日の擾乱の存在が確認できた。また、それぞれのデー タで対流圏上層にみられた中立に近い擾乱は中間規模波動(Sato et al,. 1993, 2000)であると考えられる。