2008 年度 第 9 回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 12 月 04 日 (木) 10:30〜12:00
講演者 木下 武也
講演題目
中層大気3次元残差循環及び3次元波活動度フラックスについての理論的研究
概要

成層圏の化学・放射過程で中心的な役割を果たすオゾンは、熱帯中上部成層圏の 光化学過程で作られ、ブリューワドブソン(BD)循環によって中高緯度に運ばれる。 その結果、中高緯度では熱帯よりもオゾンコラム量が大きくなる。一方で、南半 球春季におけるオゾンの水平分布は東西非一様な構造をしており、オゾン量の少 ないオゾンホール周辺にオゾン量の多い経度領域が存在し、オゾンクロワッサン と呼ばれている[Wirth, 1993]。そのため、オゾンの空間分布を調べるには3次元 的な循環を捉える必要がある。

オゾン等大気微量成分の輸送を評価する手法として、変形オイラー平均(TEM)系 における残差子午面循環があるが、循環の経度依存性や東西方向の輸送を表現す ることが出来ない。Plumb [1986]やTrenberth [1986]は、TEM系を3次元に拡張し、 3次元残差循環を導出した。しかし両者とも準地衡流近似を仮定しているため、 大気重力波等のような小規模擾乱の影響を表現することが出来ない。Miyahara [2006]は重力波にも適用可能な3次元波活動度フラックス、および3次元残差循環 を導出したが、東西方向の運動方程式の移流項に残差循環とオイラー平均流両者 が含まれ、残差循環が質量保存を満たさないという問題があった。

そこで本研究では、まずMiyahara[2006]を基に質量保存を満たす3次元残差循環、 およびそれに対応する3次元波活動度フラックスを新たに導出した。次に、導出 した3次元残差循環がオイラー平均風と擾乱の非線形効果によって生じる流れ(ス トークスドリフト)の和になっていることを示した。また、 3次元波活動度フラッ クスに物理的な意味付けを与えるため、Bretherton [1969]が行った形状抵抗か らTEM系のEliassen-Palm(E-P)フラックスを導出する方法を参考に考察を行った。 最後にChemistry-Climate Model Validation Activity (CCMVal)データを用いて 2003年10月における一ヶ月平均したオゾン混合比の3次元輸送の様子を調べた。 その結果、オイラー平均流に乗ってみたオゾン混合比の日々変化が、ストークス ドリフトによる移流と波の非定常な成分及び断熱的に保存する運動からのズレに よる効果によってほぼ表されることがわかり、前者は極渦外部で、後者は極渦内 で効いていることがわかった。