2008 年度 第 5 回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 7 月 24 日 (木) 10:30〜12:00
講演者 小山 健宏
講演題目
非静力学モデルを用いた南極カタバ風の力学的研究
概要

南極大陸の地表付近では、放射冷却により重くなった空気が斜面を滑り落ちるよ うに吹くカタバ風が卓越している(Ball,1956)。Parish and Bromwich (1987) は、Ballのモデルを用いて南極氷床上の地上風の流線を計算し、地形の効果によ りカタバ風が強まる場所の存在を示した。また、James (1989) は、軸対称な理 想地形を用いた数値計算を行い、カタバ風が対流圏循環の一部をなすことを示し た。この計算では、カタバ風はある強さに達した後、次第に弱まり、維持されな かった。これは、カタバ風とともに南極大陸上空で西風(低気圧渦)が強まり、 斜面に沿った負の浮力とバランスするように働く南極中心に向いた気圧傾度力が 作られてしまうためと解釈された。一方、Sato and Hirasawa (2007) は、45年 間の昭和基地の地上気象観測データを統計的に表し、温度、気圧、風向、風速の 日変化を示した。その特徴は、太陽放射の日変化に起因するカタバ風の特性で説 明できることを示した。

本研究では、以上をふまえ、気象研究所/数値予報課統一非静力学モデルを用 い、カタバ風の力学を詳しく調べることを目的とする。まず、現実地形における 数値計算を行い、典型的なカタバ風が吹く地域である南極みずほ基地での観測結 果と比較し再現性を確認した。次に、Sato and Hirasawaで示された気象要素の 日変化とカタバ風の関係を調べるために理想地形実験(軸対称な地形と、溝のあ る地形)を行った。その結果、カタバ風の風向の日変化は地形の影響を受けてい ることが示唆された。また、Jamesの結果と異なり、カタバ風の風速は弱まら ず、上空の西風も弱いままであるという結果となった。

今回の発表では、カタバ風研究のレビューを行うとともに、モデル実験の結果に ついてカタバ風の日変化とカタバ風と対流圏循環との関係に注目し詳しく議論する。