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気象学臨時セミナー

場所 理学部 1号館 中央棟 7階 739号室
日時 7 月 23 日 (木) 15:30〜17:00
講演者 廣田 渚郎 ( 東大CCSR )
講演題目
夏季東アジア域に見られる3極気候偏差の形成プロセスに関する研究
概要

東アジア域の夏季(6~8月)気候の主要な年々変動(1979~2005年)パターンを、降水 量と500hPa面高度(Z500)の特異値分解解析(SVD)の第1モードとして抽出した(説 明する割合は0.588)。このSVD1は、フィリピン付近、中国・日本、東シベリア付 近に正、負、正(又は負、正、負)の偏差を持つ。この3極偏差パターンが東アジ ア気候場の構造(平年の状況を27年平均で定義)と関係する内部プロセスが関わっ て頻繁に現れる、力学モード的なパターンである可能性を調べた。

観測(再解析)データの解析から、偏差パターンに見られる大気波動の流れ、エネ ルギー変換、湿潤プロセスなどの内部プロセスを調べた。波の活動度フラックス は、大気下層ではフィリピン付近から北向き、上層では東シベリアから南東を向 く。これらの活動度フラックスは下層のフィリピン付近の気候場南西風や、上層 の北西風と関係している。エネルギー変換は気候場東西風の東西傾度の強いフィ リピン付近、温度や水平風の南北傾度が強い東シベリア付近、傾圧性の強い日本 上空で、大きな値が見られ、偏差場が気候場からエネルギーを受け取っている。 また、低中緯度では、気候場の水蒸気量と関係して、循環場偏差が降水量偏差を 伴い、鉛直流が下層の循環場偏差を強めている可能性が考えられる。

3極偏差パターンが、これらの内部プロセスによって形成され、頻繁に現れるも のであるのかを検証するため、夏季気候場を基本場とする湿潤プロセスを導入し た線形プリミティブモデルを用いた数値実験を行った。北半球一様に分布する各 強制に対する線形応答を計算し、SVD解析から現れ易い応答パターンを求める。 得られた現れ易い応答は東アジア域に3極構造を持ち、上述した様な湿潤・力学 プロセスが働いている。次に、湿潤プロセスの役割を調べるために、湿潤プロセ スを止めて、同様の実験を行った。得られたドライモデルの現れ易い応答には、 東アジア域に3つの偏差は見られるものの、湿潤モデルのものに比べると、北の 偏差は西へ、南の偏差は北東へずれ、低・中緯度下層の応答は弱くなる。3極偏 差パターンは湿潤や力学の内部プロセスと関係して、夏季東アジア域で現れ易 い、力学モード的なパターンであると考えられる。