2008 年度 第 1 回 気象学セミナー

場所 理学部 1号館 西棟 7階 710号室
日時 6 月 5 日 (木) 10:30〜12:00
講演者 小坂 優
講演題目
CMIP3マルチ気候モデルに見られる夏季東アジアでの大気循環変動
概要

夏季東アジアはオホーツク海高気圧と小笠原高気圧の2つの停滞性高気圧の 影響下にあり,これらの高気圧とその間に位置する梅雨前線の変動は日本に 暑夏や冷夏をもたらす.オホーツク海高気圧の形成および変動には寒帯前線 ジェットに沿った北欧からのロスビー波伝播が寄与することが知られている (Nakamura and Fukamachi 2004).一方,小笠原高気圧の変動にはアジアジ ェットに沿った南欧からのロスビー波伝播(シルクロードパターン,Enomoto et al. 2003)およびフィリピン付近の降水活動変動に伴うテレコネクションパタ ーン(PJパターン,Nitta 1987)が寄与することが明らかになっている.本研究 の目的は,IPCC AR4にその結果が引用された25のCMIP3 気候モデルについて, 20世紀再現実験(20C3M)の結果からこれら3つのテレコネクションパターンの 再現性を評価し,CO2排出シナリオに基づく温暖化実験(SRES A1B)の結果 からこれらの変動パターンの長期変化を調べることであり,本セミナーでは 特にPJパターンに関する解析結果を中心に進捗状況を発表する.

Kosaka and Nakamura (2006, 2008)は再解析データに基づくコンポジット解析 から,PJパターンがエネルギー変換を通して気候場からエネルギーを受け取る 傾向にあり,夏季アジアモンスーンと北太平洋亜熱帯高気圧の境界領域における 卓越変動モードであることを示唆した.本研究では20C3Mにおける北西太平洋 対流圏下層の渦度の変動に対するEOF解析を通して各モデルのPJパターンを 抽出するが,上記の性質より,その構造は気候場の構造に強く依存すると考え られる.同じ領域の渦度の気候場に対してモデル間のEOF解析を行うと,EOF1 はPJパターン的な構造を示し,さらに対応するPC1の絶対値が小さいモデルほど (現実的な気候場を再現するモデルほど)各モデル内のPJパターンは観測される ものと高いパターン相関を示す.これらの結果はPJパターンのモード的な性質 と整合する.

また,SRES A1B実験における温暖化後の夏季北西太平洋の気候場において, 小笠原高気圧の位置が現在より南下する可能性が示されており(Kimoto 2005), これには温暖化時の大気成層度の上昇が寄与していると考えられる.このよう な気候場の下での,PJパターンの構造と振幅の変化について議論する.