気象学臨時セミナー(学位論文提出予備審査)

場所 理学部 1号館 中央棟 3階 336号室
日時 10 月 3 日 (水) 9:00〜10:30
講演者1 大島 長 さん(理学系研究科)
講演題目1
Modeling studies on aging process of black carbon and its impact on aerosol optical properties
数値モデルによるブラックカーボンの被覆過程とその光学特性に関する研究
概要

ブラックカーボンは太陽放射を吸収することで、大気の加熱率や地球の放射収支を変 化させ、大気の循環場などを変え得る可能性が指摘されている。ブラックカーボンは 燃焼過程により疎水性粒子として大気中に排出されるが、凝縮や凝集等の物理化学過 程に伴い、水溶性エアロゾル成分によって被覆され、親水性粒子へと変化する。親水 性粒子は雲凝結核特性を持ち、降水によって除去されるので、ブラックカーボンの混 合状態(被覆状態)は、その自由対流圏への上方輸送と引き続き起こる広域空間分布 を決定づける。また、ブラックカーボンは、他のエアロゾル成分によって被覆される と太陽放射の光吸収率が大きく増大するので、ブラックカーボンの混合状態はその直 接放射強制力の推定においても重要である。しかしながら従来のエアロゾルモデルで は、ブラックカーボンの混合状態や被覆過程について、非常に簡易的な表現が用いら れているにすぎず、従来の気候影響評価には大きな不確定性が含まれていた。そこで 本研究では、これらの従来のモデル表現を抜本的に改善するために、ブラックカーボ ンの混合状態を陽に表現し、物理化学法則に基づき被覆過程を扱う新しい数値モデル の開発、及び被覆過程の支配要因の解明、被覆されたブラックカーボンがエアロゾル の光学特性に与える影響評価を目的とした。

本研究では、各エアロゾル粒径(離散的なビン法で表現)で複数のブラックカーボン の質量割合(混合状態)を同時に表現できるエアロゾル表現を考案し、被覆変化を凝 縮過程に基づいて正確に計算できるボックスモデルを開発した。モデル結果と航空機 観測により得られた実大気中の観測結果との比較から、都市域から排出され海洋上へ 輸送された空気塊中のブラックカーボンの混合状態の変化をモデル計算は良い精度で 再現していた。このことは、被覆過程の特徴が凝縮過程により基本的に説明可能であ ることを示唆している。また、観測された混合状態の変化を再現するためには、有機 エアロゾル、及びブラックカーボンを含まないエアロゾルが重要であることを明らか とした。さらに、モデルで陽に表現されたブラックカーボンの混合状態に基づき、エ アロゾルの光学特性の計算を行った。日本の典型的な都市起源空気塊中では、ブラッ クカーボンは被覆されることで、海上輸送直後、及び陸地から最も遠方の観測地点に おいて、被覆がない場合と比較した光吸収の増大割合は1.35倍、1.58倍、単一散乱ア ルベドは0.836、0.862とそれぞれ増大していた。

開発したモデルを使用した感度実験と凝縮過程の理論的考察から、ブラックカーボン の混合状態を決定する要因を明らかとし、特にブラックカーボンの粒径分布とその被 覆総量が重要であることを示した。被覆総量を決定する上で、ブラックカーボンと被 覆成分の前駆気体の排出量が重要な要素であることを示した。また、夜間や高相対湿 度条件下での硝酸塩エアロゾルの重要性を示した。さらに、グローバルスケールのエ アロゾルモデルで使用可能なブラックカーボンの疎水性から親水性への変換を時定数 (雲凝結核特性を持つまでの時間)で表現する簡易的なパラメタリゼーションを考案 した。