大気海洋合同セミナー

場所 理学部 1号館 中央棟 3階 336号室
日時 7 月 19 日 (木) 16:30〜18:00
講演者 大島 長
講演題目
エアロゾルの混合状態を表現した数値モデルによるブラックカーボンの被覆過程と 輸送過程の研究
概要

 エアロゾル(大気中の微粒子)は太陽放射を吸収・散乱することにより、地球の放射収支を変化させる。多くのエアロゾルが太陽光を散乱するのに対し、ブラックカー ボン(黒色炭素粒子)は太陽光を強く吸収し大気を加熱する。この加熱効果により、 大気の鉛直安定度が増大し、対流活動が抑制される結果、雲の生成や降雨が抑制される。実際に1960年代から見られている中国北部の干ばつ傾向および南部の洪水傾向は、ブラックカーボンによる加熱効果により引き起こされている可能性が指摘されている。

 ブラックカーボンは燃焼過程により疎水性粒子として大気中に排出されるが、凝縮や凝集等の物理化学過程によって水溶性エアロゾル成分に被覆され、混合状態が変化 することにより親水性粒子へと変化する。親水性粒子は雲凝結核特性を持ち、雲粒へ取り込まれ降水によって除去されるので、ブラックカーボンの被覆状態(混合状態)は、その自由対流圏への上方輸送とそれに引き続き起こる広域分布を決定づける。また近年、ブラックカーボンが他のエアロゾル成分によって被覆されると、太陽放射の光吸収率が大きく増大し、その直接放射強制力はメタンと同程度になり得ることが報告されている。ブラックカーボンの光吸収率や雲凝結核特性はその粒径分布(各粒径の個数濃度分布)にも依存するため、各粒径のブラックカーボンが水溶性エアロゾル成分によって被覆される過程を定量化することが、エアロゾルの気候影響評価において極めて重要な課題となっている。

 しかしながら従来のエアロゾルモデルでは、ブラックカーボンの被覆過程について、ある一定値の時定数を用いるなど、非常に簡易的な表現が用いられているにすぎず、粒径分布も単分散の対数正規分布が仮定されている。このためブラックカーボンの気候影響の評価には、大きな不確定性が含まれていた。そこで本研究では、これらの従来のモデル表現を抜本的に改善するために、物理化学法則に基づいた新しいブラ ックカーボンの被覆過程の数値モデルの開発と、被覆過程の支配要因の解明、及び被覆されたブラックカーボンの輸送過程の定量的な理解を目的とした。

 本研究では、エアロゾル粒径分布(離散的なビン法で表現)とその中に占めるブラックカーボンの質量割合分布(被覆状態、混合状態に対応)という2つの指標を用いてエアロゾルを表現し、各粒径での混合状態を表現できるボックスモデルを開発した。 作成したモデルの検証のため、モデル計算結果と航空機観測(2004年3月に日本周辺で実施されたPEACE-C航空機観測)により得られた実大気中の観測結果との比較を実施した。この結果、観測された都市域から排出されたブラックカーボンの混合状態の変化を、モデル計算は良い精度で再現できることが確認された。

 本研究発表では、本モデルの説明をするとともに、ブラックカーボンの被覆過程、 航空機観測の事例研究、被覆過程のタイムスケール(雲凝結核特性を持つまでの時間)、ブラックカーボンの湿性沈着過程など、本モデルを用いて得られた結果について報告する。